動き出す歯車(2)

「時田ありす!」


急に名前を呼ばれた。先輩もあたしもすでにボロボロ。この世界を捨てれば、二人とも助かる。でも、この先輩はそんなことしない。するはずがない。


「…次の生徒会長、よろしくね」


そういうと、大量の化け物に立ち向かっていった。あたしはその後ろ姿が消えるまで眺めていることしかできなかった。


先輩に言われた最後の言葉。

言われた通り今は生徒会長をやっている。でも、どうしても、先輩のようにうまくできない。先輩のようにやろうとしてはいるけど、全然うまくいかない。学園のみんなを笑顔に出来ない。


あの人は…先輩はどうしてあたしを生徒会長に指名したの?



「会長…会長、起きてください」


誰かが呼んでいる。聞いたことのある声だ。それは文句を言いつつも世話を焼いてくれるひとつ年下の幼なじみの声。

起きたいとは思うが、瞼が重い。


「ありす!起きてください!」


彼女の声が部屋に響き、目が開いた。


「あ、雪~おはよ~」


雪と呼ばれた少女は呆れた顔をしながらこちらを見下ろしていた。


「やっと起きました…こんなところで寝てたら風邪引きますよ」

「ここどこ~…?」

「生徒会室です」

「ありゃー、昨日あれから寝ちゃったか」

「はぁ、しっかりしてくださいよ…」

「あははー」

「…寝てる間うなされてましたけどまた『あの夢』ですか?」

「まあねー」


二人の間に沈黙が流れた。ふと、雪が何かを思い出したかのように声を出した。


「あ、そういえば今日の入学式で読む文章は決まりましたか?」

「……う」

「はぁ…そんなことだろうと思いました…ここで寝てたのもそれが関係しているんでしょうね。」

「さすが幼なじみ。自室じゃ他のことしちゃうし、寮の共有スペースで文考える訳にはいかないからさ。集中するためにしょうがなーく、生徒会室で…こっそり夜侵入しましたー」

「…それなのに全く文章が考えられてないと…」


ありすはちらっと雪の顔を見る。怒っているような呆れているようなそんな顔をしている。


「…まあ、こうなることは予想してましたけど」


そういって彼女は鞄の中から一枚の紙を出した。


「これ、使ってください。ただしこれを丸読みはダメですからね!あくまで、参考程度ですよ!?自分の言葉もしっかり混ぜてください」

「はーい。…入学式って言ってもほとんど小学校からずっと持ち上がりじゃん。中学生はたまに入学や転校してくるけど、高校生はほとんど…ううん、全く入ってこないじゃん。」


「…今年は一人、いますよ」

「え!?嘘!?」

「本当です。この前生徒会に配られた資料読んでないですか…?」

「いやー、ね、あはは…忙しくて…」

「あなたのどこが忙しいんですか…」

「う…」


そう言って雪は資料を渡してくる。


「私、凪砂さんと挨拶当番なので行きますね。その資料、式が始まるまでに読んでおいてくださいね。」


外に出て扉が閉まるのを確認してから、彼女が置いていった資料を手に取る。そこには「星空自由」という少女の情報が載ってた。


「星空…ね…」


呟いた言葉は誰にも聞かれるわけもなくただ宙に消えていった。

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