動き出す歯車(1)

4月のよく晴れた日、真新しい制服を着た少女が独りバスに揺られていた。そのバスには彼女以外、客は乗っていない。他の客は終点のひとつ前、ショッピングモールがあるバス停でみんな降りてしまったのだ。ショッピングモールの次のバス停で降りる人は滅多にいない。次のバス停まで少し距離がある。たどり着くのは学園前。少女はその学園に入ろうとしているのだった。



「♪~♪~」


ラフな格好をしたひとりの少女がリビングに置いてあるソファーに寝転びながらスマートフォンで何かを見ていた。


「ちょっと自由寝転がってないでよ…って、またそのMV見てるの!?」

「あ、お姉ちゃん!だって、この曲とっても元気がでるんだよ!!歌詞もいいし、映像も綺麗で…何よりお姉ちゃんが出てる!!」


そう言って自由と呼ばれた少女は彼女にイヤホンの片耳を渡そうとする。しかし、彼女はそれを受け取らなかった。


「いや、いい…歌ってるの私だし…」

「そっか…」


自由は動画を止めようとしたが、姉は苦笑いをしながら「止めなくていいから。最後まで見てなよ」と言った。動画が終わると自由は姉の方を見た。


「…なに?」

「んー、お姉ちゃんはやっぱりかっこいいなって思って!」

「そんなことないと思うけど…普通だよ」


恥ずかしそうにしていた。


「そうだ、自由。学園もアイドルの仕事もお休みだから明日ここ行かない?久しぶりにさ」


彼女の手に握られていたものは遊園地のチケットだ。


「わぁ…!行きたい!いいの!?」

「もちろん。そのためにチケット買ったんだから。でもよかった…断られたらこれどうしようかと思ってたから」

「断るわけないよ!…でももし断られたらどうするつもりだったの?」

「断られたらか…うーん、あんま考えてなかったな」

「えーじゃあ、恋人と行けばー?」

「そんなのいないよ!」


そういうと2人は笑いだした。しばらく笑っていると突然、彼女の通信端末が鳴り出した。スマートフォンに似たそれは学園から支給されている少し特殊なものだった。


「まじか…」

「お姉ちゃん…?」

「大丈夫。明日までに戻ってくるから、遊園地行こう。約束。それじゃ行ってくるね」

「あ…」


彼女は自由の頭を撫でて、母親と少し話をして急いで学園に戻っていった。

次の日、自由が遊園地を楽しみにして起きるとリビングで両親が泣いていた。そう、彼女は帰らぬ人となったのだ。



自由はバスの中でぼんやりとその日の出来事を振り返っていた。


(なんでこんなこと今思い出した…?あれから3年か…お姉ちゃんと同じ場所に…覚悟を決めないと)


「ご乗車ありがとうございます。まもなく『音戯乃学園前』~。『音戯乃学園前』でございまーす。」


これから通うのは自由の姉が通っていた『音戯乃学園』。おとぎ話や童話といった物語の力を宿した少女たちが通う所だ。そこでは力を宿した少女たちが物語の世界で物語を食らう化け物を滅するため日々訓練をする場所である。

ここに通う童話の少女たちはのいつまで生きていられるかわからない。自由はそのような生活に足を踏み入れようとしていた。

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