いつでも、先の希望を見つめているように。「無人島に生きる十六人」須川邦彦

@Y_risa

第1話

 これは、かなり古い物語です。明治31年、帆船・龍睡丸は太平洋上で座礁、かろうじて脱出し無人島に上陸した16人の日本男児たちの運命やいかに?

 物語と書きましたが、実はこれ作品解説に「感動の冒険実話」とあるように、本当にあった話なんです。でもサバイバル物にありがちな悲劇も、諍いも、人死にも出てきません。全編を通して、愉快で明るい。ここが、新型コロナウイルスと共生する時代の一冊としてお薦めする理由です。『十五少年漂流記』と『蠅の王』どちらを好むかは人ぞれぞれですが、閉塞した希望のない時代にどちらがより必要とされるかというと、断然前者だと私は思うので。

今、私たちは不自由で困難な現実の中にあり、かつての日常を取り戻すことができるかどうかすら不明です。でも無人島に漂着した16人よりは希望があるのではないかしら? いや彼らには仲間がいたのに、私たちは孤独を強いられている。いやいや、私たちにはネットがあるし……諸々の想いはあれど、まずは16人の無人島ライフを味わってみてください。

 

 16人が辿り着いた島には水源がありませんでした。何はともあれ井戸掘りです。珊瑚質の地面は固く、掘っても塩辛い水しか出てきません。16人は塩水を飲んでお腹を壊し、ふらふらになりながらも井戸を掘り、天幕を張り、灯明を作ります。小さな無人島には何にもなくて、魚を捕るための網、竈、草ぶきの小屋、生活に必要な物は何でも自分たちで工夫して作り出さねばなりません。


島で迎える最初の朝、船長は皆と四つの約束をしました。


一つ、島で手にはいるものでくらして行く。

二つ、できない相談をいわないこと。

三つ、規律正しい生活をすること。

四つ、愉快な生活を心がけること。


 船長は経験から、無人島に流れ着いた者のうち死んでしまった者たちは、たいがい「絶望してしまった」のが原因だと知っていたからです。絶望に囚われない為には、強い心で、愉快に暮らしていかなければならない。年長者が青年たちをしっかり導かねばならない。船長は、古参のメンバーとそう決意をするのです。

 例えば、通る船に助けを求める為の見張り台が完成した日、最初の夜の見張りには最年長の小笠原が志願しました。言葉にはしなかったけれど、たった一人で暗い海を見つめることが、若い者の心を弱らせてしまうからです。「みんな、安心しておやすみ」と出ていく小笠原の頼もしいこと! そして彼の真意に気づいて寒さ対策の帆布を差し入れながら礼を言う船長の渋いこと!


 こうして、16人の無人島での生活が始まりました。衣食住が整うと、若者たちは勉強を始めます。船の運用術、航海術、漁業と水産の授業、数学と作文。そのかいあって、ろくに手紙も書けなかった者たちが、帰国時には立派な手紙を出して家族をびっくりさせたというエピソードには、心ほっこり。

 座礁した船から脱出する際、船長は皆に言いました。「愉快にくらそう。できるだけ勉強しよう」そして「いつでも、先の希望を見つめているように」と。この言葉は今しばらく続くであろう自粛生活にぴったりだと私は思うのでした。


最後に、この本は電子書籍で読めますが、コロナが落ち着いて書店が再開したらぜひとも紙の本も手に取ってみてください。(余裕のある方は電子で読んで紙でも買おう!)カミガキヒロフミ氏の表紙が、良いんです。のほほーんとして底抜けに明るい、島の俯瞰図。もちろん16人ちゃんといるか、きっちり数えちゃいましたよ。

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