CASE:03 I AM A HERO.UNDERSTAND?
日本初の
あいつらゾンビたちのことをテレビに出ていた専門家たちは『
まあ、呼び方なんでどうでもいい。3ヶ月経って地獄と化したこの都市にいて分かったことがある。この国は・・・完全に腐ってやがる。
街を徘徊するゾンビ。
奴らは日の光を浴びるために日中は太陽に向かってアホズラ引っ提げてでっかい口を開けている。喉元に宿している本体が光合成するのが目的であんな間抜けなことをやっているらしいが、見ている分には笑える。その間は奴らは光合成に夢中で近くを移動しても一切気付く気配がない。あんまり襲ってこないもんだから、突っ立ってるゾンビの喉元にナイフを近づけてみた。
・・・全く反応がない。
所詮は植物だ。
そう思いながらプスっ・・・とナイフを喉元に突き刺す。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと。時間をかけて。少し抵抗感覚えたところでゾンビは暴れ出す。必死にもがき苦しみなら抵抗してくるのを俺はガッチリ腕でホールドする。
おお、なんかいいぞ。人の時とは違った感じ。新鮮だ。
そう思いながら喉元を掻っ捌くように切り裂く。血が・・・思ってるほど出てこない。それ以上に緑色の謎の液体が垂れ流れてきた。
ん?なんだこれは?
そうか。こいつが寄生している本体なのか?なんか気色悪い植物だ。
「お前!!!」
男の声。
背後から呼び止められる声。ああ、この声の感じは聞き覚えがある。
振り返って確かめる。
「お前・・・今、あの人を殺したんか?」
多分年齢は50歳ぐらいか。頭の禿げたダサいおっさん。
ゾンビに対して”あの人”ってこのおっさんは言った。
そうとも。このおっさんは俺が殺したこのゾンビのことをまだ人間であるかのように言ったのだ。実はこの3ヶ月に最も驚かされたのは世の中にはこんなおっさんみたいな人がたくさんいるって言うことだった。政府はゾンビのことをこう定義付けている。
『未確認植物寄生患者』と。
つまり謎の植物に寄生されてしまっただけで、彼らは未だ生きた人間なのだ・・・と言う風に定義付けているのである。この国にはゾンビのことをそう定義付けている人がなんと多いことか。
寄生植物に規制されただけ。
可哀想な人たちなのだ。だからなんとかしてあげよう!
そんな団体までいる。
冗談じゃない。もうぶっ殺しちゃえよ。あんなの。
仮にあんな感じになったまま生きていたとして、幸せなもんか。
ぶっ殺してやった方が幸せってもんさ。
(・・・あれ?なんて俺は優しいやつなんだ。聖人なのかもしれない。)
それゆえ映画とかで見るような自衛隊が出動してゾンビ相手にドンぱちするってのを期待していたわけだけど、実際はそうはならなかった。
『人権』ってのが邪魔するらしい。
期待外れだ。だから無駄に被害者が増えてゾンビが日々増加していっている。つまり俺がやっていることは今も昔もあいも変わらず、殺人。違法なのだ。
まあ、いいんだけど。
「そうだけど、何?」
「・・・お、お前!!!ひ、人を殺して、なんとも思わんのか!!!」
なんとも思わないんだけどなー・・・とは言い返さない。
元々人を殺すことにも抵抗がないって言うと話がややこしくなる。
しかし不思議だ。
そもそも本当にこのおっさんは”これ”を未だに人だと思っているんだろうか。
「何おっさん。これ、本気で人って言ってるの?ねえ、マジで言ってるの?」
そう言いながら倒れている死体に向けてナイフでツンツンって突っつく。
「やめろ!!!!死者を冒涜するな!!!!!!」
死者を冒涜だって。ウケる。
「ねえ、おっさん、頭大丈夫?これゾンビだよ?」
「侮辱するなああああああ!!!!!!」
やばい、おっさん。マジ泣きしそう。笑える。
「その人はな、必死に生きてたんだよ!必死に!!!未知の植物と必死に戦っていたんだ!それを・・・お前は・・・・」
身体をプルプル震わせながら俺のことを凄い目で睨み付けてきた。
「ゾンビって・・・ゾンビって侮辱するなああああああ!!!!!!!」
「うざ」
我慢の限界だった。
ダーツと同じ原理だ。持ってたナイフをおっさんの喉元に投げて突き刺した。
あ、鳩が豆鉄砲食らったような顔してる。
ウケる。
喉元やったから声出せないよね。うわ、凄い苦しそう。
そう思いならナイフを引っこ抜いた。
プシャーって血が吹き出る。そうそう、こういうの。こういうのをゾンビに期待してたんだよ。うん。
おっさんの死にゆく顔が、口元が、こう言ってる。
(・・・ど、どうして)
「え、だってうざいんだもん」
人殺す動機なんてそんなもんでしょう?大層な理由なんてないよ。
殺りたいから殺るだけ。みんなそうでしょう?
おっさんが事切れた。まあ、来世でいい人生送れよ。おっさん。
「その人・・・殺したの?」
おいおい、またかよ。
うんざりしながら声の方を見る。
女の人。そしてその後ろに二人男の人。みんな20代ぐらい、俺と同じぐらいの歳か。俺を見つめるっていうよりかは死んだおっさんの方をジィ・・・と見つめていた。
「だったら何?」
「・・・その人、私たちの近所に住んでいる人なんです」
「・・・凄い、世話焼きな、いい人だったよな」
「・・・うん、昭和の人って感じのいい人だった」
「あっそう。で?」
「都市が封鎖されて食事はもちろん、どうやって生き残っていくか。途方にくれていた私たちをその人は助けてくれて・・・」
「助け合いが、助け合いが大事なんだって、何度も俺たちを励ましてくれたよな」
「こんな酷い世の中だから、生きることを諦めるんじゃないって、その人は・・・その人は・・・・」
「だから何が言いたいんだよ!!!」
もー、鬱陶しいな。
そんなに文句があるならさっさとかかってこいよ。
全員ぶっ殺してやるよ。かかってこい。
「でも、その人のせいで何度も殺されかけた」
「あの人たちは可哀想な人なんだからって逃げることしかさせてくれなかった」
「死にたくなくて、先手を打とうしたら・・・鬼畜だ、外道だ、って、何度も罵声を浴びせられた」
・・・うん?
なんか思ってたのと違う。
雲行きが怪しいぞ?
「もう私たち、限界だったんです」
「・・・そ、それで?」
俺のその問いかけに彼らはやっと魂を取り戻したかのように目に涙を浮かべながら、こう言ったのだ。
「「「殺してくれて・・・ありがとう」」」
衝撃だった。
人生で初体験だ。人に恨まれることはあった。憎まれる人生だった。嫌われ、罵詈雑言を浴びせられる人生だった。
でも、今、俺は・・・人生で初めて”ありがとう”を言われた。
しかも、人を殺してありがとうって言われるなんて。
3人はその場に膝から崩れ落ちるように泣き出していた。ほっとしたような、緊張が解けたような、そんな感じ。
経験したことがない感覚。
これを、なんというのだろう?
「・・・いやー、人殺しが許される。そんな世の中になるなんて」
やばい。自分でもわかる。
口元がにやけてる。嬉しくてたまらない。
今まで必死になってやってきた。
法律で許されないから。バレたら捕まって人生終了だから。だからこそこそと隠れてやってきたんだ。死体処理って大変なんだ。自分の痕跡を消すのって面倒なんだ。でも大変だけど、面倒だけど、今までずっと一人でやってきた。頑張ってきた。どうやったら人を殺すのが楽になるか。そういうの必死に勉強してきた。
ありがとうのその一言が、なんだか、その全部を認めてくれた気がした。
やばい。
なんだろう。目が熱い。
涙?俺が泣くなんて。
俺は自分で自分のことを心がないやつだと思ってた。でも、そうじゃなかったんだ。
「・・・いやー、いいことってするもんだなー。努力って報われるんだなー」
俺は本当に、今まで人を殺してきて、本当によかった。
「マジ、ゾンビ世界、サイコー!」
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