CASE:04 WE ARE VIGILANTE. FOLLOW ME♡
「僕らはみんな生きているー♪生きているから歌うんだー♪」
その歌が嫌いになりそうだ。
「真っ赤に流れるー♪僕の血潮ー♪」
もうあの男の歌声が、耳から焼きついて離れない。
自らの歌の途中で、合いの手を入れているのも、妙に上手いのも全部が腹が立つ。楽しそうに歌っているあいつの歌。なんで笑っているんだ?あいつは。
あの時。
僕はただただ泣き喚いていた。それしか出来なかった。
悲しさとか怒りとかいろんなものがぐちゃぐちゃになって・・・僕はただ喚き散らすことしかできなかった。
僕は生まれて初めて、人に対して芽生えた感情があった。
(–––こいつが憎い)
と。
「カガミイイイイイイイイ!!!!!!!キサマアアアアアアア!!!!」
言葉にならない叫びと共に僕はやつに銃口を向けた。
**********************************
親は僕に優しい人になって欲しい。
そんな願いから名前を『優』にしたんだそうだ。
振り返ってみれば僕の根底には、その両親が願った”優しい人”がいつもあったのかもしれない。
僕の名前は
18歳。この封鎖都市に取り残され、いつ命を失うかもしれない恐怖と戦いながら、僕は今を懸命に生きている。
「優くん!こっち!こっちは安全だよ!」
そう言って僕を呼ぶあの人は田島さん。
昔からの知り合いで、この都市で逃げる際、いつもお世話になっている。
駆け足で田島さんのところに向かった。息を整えて田島さんに笑顔を向ける。
「ほんと、いつもありがとうございます」
「いいんだよ。こんなご時世だもん、助けあわないと。これ、少ないけど」
そう言って手渡されたのは食糧。どこかのスーパーで集めてきたのだろう。長期保管に適した缶詰が中心的だった。完全に封鎖されたこの都市で食糧は貴重だった。場所によっては食糧を通貨として取引もあるのだと聞いたことがある。
「全然!むしろこんなによくしていただいて感謝しかありませんよ!」
「いいんだよ、本当に。優くんにはこんな風になる前からお世話になってきからさ。そんなことよりも弟さんは、無事かい?」
「・・・ええ、なんとか」
「・・・大変だよね。特にこんなご時世じゃさ」
「はい。確かにそうなんですけど・・・。でも、僕は福のおかげで一人にならないで済んでますし、何よりも・・・笑顔でいられます」
年が5つ離れた僕の弟。両親が旅行でこの都市を離れた時に、
もし、一人でこの街に取り残されたらと思うとゾッとする。でも僕には福がいる。
「・・・優くん、頑張ってね。もうすぐ日も暮れる。早くお帰り」
「はい。田島さんも。ありがとうございます」
礼を言って、その場を後にする。
時計を確認する。時刻は16時を過ぎたところ。早く、早く帰らなければ。
奴らが・・・。
奴らが起きてしまう。
**************************
『
そのため本来彼らが栄養素を獲得する手段は、決まって光合成。
封鎖されてからこれだけ月日が経った現在、都市内部にいる
しかし、日が暮れると・・・・
もう一つの特性が働き出す。
そもそも奴らはウツボカズラなどと同じ食肉植物。
つまり、飛来する虫や小動物を捕食することで、栄養を補完するよう進化した植物。彼らが決定的に違うのはラフレシアなどの寄生植物の特性を併せ持ち、恐ろしいことに奴らは母体となった動物を操縦、思考を乗っ取り身体活動のすべてをコントロールするよう進化していると言うことだ。さながら寄生された人間がゾンビのように徘徊するのはそれが理由だった。
日中は光合成によって栄養素を確保することができるため、比較的に大人しい
つまり、日が暮れてからの活動は非常に危険なのだ。
特に
だから僕はいち早く帰らなくてはいけない。
日が暮れる前に。
やっとの思いで僕らが定住している家に着いたのは、それから30分が経ってからだった。もう、だいぶ日が落ちた。
よかった。日が暮れる前に帰れて・・・。
「ただいま」
「・・・お帰り。兄ちゃん。遅かったね」
この寝袋の中から返事をするのが僕の弟、福だ。
「悪い。日中にしか動けないからさ。でも、収穫がたくさんあったんだ。ほら!こんなに食糧手に入れたんだぞ!」
そう言ってカバンを開けてみせる。
「・・・その角度じゃ見えないよ」
そう福は言った。
福は生まれつき、両手両足、四肢を持たずに生まれてきた。
「そっか。ごめん、これならどう?」
「・・・うわー、今夜はごちそうだね」
「だろ?」
でも、そんなの僕には関係ない。
僕には大事な、大事な弟なんだ。
「待ってろー。今から準備するからなー」
と言っても缶を開けて食べれるようにするだけなんだけど。
「ねえ兄ちゃん」
「うん?」
「・・・・なんだか、甘い匂いがする。果物でもあるの?」
言われて気が付く。
確かに。なんだか果実のような甘い匂いが、家中に漂っている。これは知っている匂いだ。日中、家の外で。街を探索している時に何度も嗅いだことがある。
この匂いは・・・・
「
それは間違いない。
でもどうして?
今まで
そこである一説の仮説に辿り着く。
もしかしたら・・・奴は、匂い嗅いでやってきたのか?
視線の先には片付けていなかった食事の残骸があった。
奴ら
(・・・だとしたら)
窓を開けて絶句する。
外には大量の
奴ら全員、日中は光合成をして、夜はここに向かって歩いてきていたんだ。その事に全く気づかず、今日までここに定住してしまった。
迂闊だった。
今、僕たちは袋の鼠だ。絶体絶命の状況にいた。
そんな時だった。
暗闇の向こうから、奇声が聞こえた。
「待たせたなああああああああ!!!!!!!ゾンビ共おおおおおお!!!!!」
暗くてよく見えない。よーく目を凝らす。
人がいた。小さな人影が確かにそこにはあった。
そして次の瞬間、スポットライトが4人の姿を照らし出した。
*************************
これ、本当にやらなきゃダメなのか?とジェスチャーで尋ねる。
答えは「当たり前だ」だった。
渋々俺はスポットライトのスイッチを押す。
「俺の名前は加賀美 悠!!このヴィジランテのリーダー!カラーはそう、レッド!!!はい次、ブラック!」
そう呼ばれたのは
「・・・ブラックって。それ絶対、あたしのこのファッションで決めましたよね?ネーミングセンスなさ過ぎ。安直過ぎですよ。加賀美さん」
「もー!そーゆーのいいからさー。阿久津ちゃん、ノリ悪いよー。名乗ろうよ!」
「嫌ですよ、絶対」
「・・・・・OK。わかった。じゃあ、ブルー!君の番だ!!!」
そう指差されたのは
「・・・・・」
「・・・なんか言ってくださいよ。左京くん」
「お前の戯言に付き合うつもりはない」
「・・・その感じ!クール!クールでかっこいいけども!かっこいいけど左京くんってば!!!!まあ、いや。そして最後にこの男!カラーは・・・・・・・・そう、グレイ!」
「喧嘩売ってんのか、あんた」
思わず言葉が出てしまった。
なんで俺だけ適当なんだ。グレイってなんだ?しかもめっちゃ迷ってたし。いや、別になんでもいいんだけどさ。
「まあ、余興はこれぐらいにして」
加賀美さんはニタァっと不気味に笑う。あの顔、本当に気持ちが悪い。
「1、2、3、4・・・・うわああ、いっぱいだあああ♡」
「あれ、全部斬っていいんだな?ふん、腕が鳴る!」
「バラして、解剖。楽しみー♡」
なんで俺はこんなヤバそうな人たちと関わってしまったんだ。今更ながら後悔する。そんな俺の心中を無視するかのように、加賀美さんはその手にあった釘付きの木製バットをブンブンと振り回す。
「さあ、野郎共!あのファッ○ンゾンビどもをメッタメタのグッチャグチャにしてやれ!!!!!いくぞおおおおお!!!!」
「俺はー・・・・身を潜めて隠れてまーす」
多分、あいつらには聞こえていないんだろうけど。
俺、
当たり前だ。あんなゾンビの大群の中に突っ込むなんて自殺行為、誰が好き好んでするものか。あんなことするのは、あいつらみたいな変人ぐらいなものだ。
俺は、まともなんだよ。
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