CASE:01 LOOK ME.

手足を怪我した人はみんな身体を引き摺ってても逃げようとする。

生への執着っていうのかな。

素晴らしい。後もうちょいだ。がんばれ。後もうちょいで表通りだよ。叫ばれると面倒だから口には詰め物させてもらったけど、後もうちょいでここから逃げ出すことが可能だよ。

頑張れ。

「–––なんて、ダメダメダメダメ。逃すわけないじゃん。はい、お遊びもここまで。はい、終了。はい、こっちくる」

俺は彼女の髪の毛を引っ張って引き摺った。毛根強くて逞しい。ちゃんと身体を引き摺ってこっちにくるんだもん。

「あーあ、泣きじゃくって可愛い顔が台無しだよ。ああ、わかるよ。わかるわかる。理不尽だもんね。なんで自分がこんな目にあってるんだって悔しくてたまらないよね。ほんとごめんね。あ、大事なことだら先に言っとくけど。なんかバチが当たったとかじゃないからね?君はね。なんも悪くない。いい?君は何一つ悪いことはしていない。前世がどうだったとか。なんか輪廻転生っての?俺全然信じてないし、仮にそうだとしてもこの仕打ちはあんまりだよ。全く関係ない!断言するよ!ただ・・・・」

あれ?どこへいったけ?

確か胸ポケットにしまったはず。

あれ?

ない!ないぞ?

ちょっと焦る。どうしよう。このままじゃ・・・とその時、ふと思い出した。

「あ、コート!」

そうだった、そうだった。

彼女を張っ倒すのにあのロングコートじゃ邪魔くさいと思って脱いだったんだ。なんて俺はうっかりものなんだろう。確かこのコートの胸ポケットに・・・。

「ジャジャーン!」

俺は愛用している刃渡り10センチのサバイバルナイフを自慢した。

「これね。毎回どう持ち歩こうか悩むんだよ。警察に見つかったら即逮捕だからね。あー、そういや知ってる?なんで銃刀法違反の刃物って刃渡り5センチ以上なのかって理由をさ。あれはさ」

ナイフを胸のあたりに当てながら親切心から説明してあげることにした。

「胸部から心臓までの距離が5センチ未満なら届かないんだ。だから5センチ以上は違法なんだよ。そして素人がやりがちなミスを言うと、映画とかアニメとかじゃナイフを縦に突き刺そうとするでしょ?あれじゃ駄目なんだよね。何が駄目って?」

いいながら敢えて実際に刃物を縦にして突き刺してみる。

痛みに声を飲む彼女に俺はそっと耳元で囁く。

「・・・骨が邪魔するんだよ。骨が邪魔して刃物が心臓に届かないんだ。人間の骨ってのはちゃんと心臓を守るように出来ている。いやー、神秘だよね。そう言う人体の構造っていうの?そーゆーのをしっかりと理解しないとさ。俺・・・何人も人を殺せないからさ。こう見えて・・・意外と勉強熱心なんだ」

大粒の涙を目に溜めていた。

なんだか悪いことをしている気分になる。まあ、実際しているわけだけど。

「だから正しくは、こう刃物を横にして・・・骨と骨の隙間を狙ってさ」

彼女に実際の殺人術を実戦にて教授していた時だった。


加賀美カガミ ユウ!!!!!!!!!」


誰かに名前を叫ばれた。男の声だ。しかも背後から。

俺はゆっくりと振り向く。

そこには何人もの警察官が立っていて、彼らは皆、銃口を向けていた。

「・・・ど、どちら様で?」

「その人を離せ!早く!」

こんなに銃口を向けられるのは初めてのことで俺は正直ビビっていた。だから思わず後ずさってしまった。

「・・・わかったよ。降参だ。な?撃つなって」

そりゃ俺だって死にたくはない。殺し損ねたことは残念だけど。

そのうちの一人の警察官の手が、震えていた。

なんか興奮していない?なんかすごい形相で見てるんだけど?

え?待て?待て?待て待て?

あいつ撃つ気じゃないか?

ちょっと待て?

「待って!!!俺、降参してるから!撃つなって!!!!」

白木シラキ!!!!!!!」

なんかお偉いさん(多分)が大声で静止してくれた。

白木と呼ばれた警察官はプルプルと震えながらゆっくりと銃口を降ろす。

・・・そう。それでいい。

俺は緊張が解けて、ゆっくりと地べたに腰を下ろした。

た、助かったー。

一安心していると、ズカズカと白木とかいう警察官を静止した偉い人(50歳ぐらいのおっさん)が俺のすぐ近くまでやってきた。

「・・・へ、へへ。へへへ。た、助かりましたよ。ありがとうございま–––」

その時、一瞬何が起こったのかわからなかった。

自体を理解したのは、頬に強烈な痛みを感じたからだ。

・・・殴られた。思いっきり。あのおっさん、確かマッチョだもんね。敵にしたくないタイプだよ。よく見ればおっさんの拳も、震えてた。

いや、それよりも!!!声にならないぐらい痛い。

「加賀美 悠!!お前を23人無差別殺人事件の犯人として逮捕する!!」

怒りに震えたおっさんの声。

目の前が痛みでチカチカしながら俺は不意に頭の中で計算をしていた。そしてその数を改めて再確認して、おっさんの言った数字を思い出す。

(–––あれ?たった23人だっけ?)

それを口にする間も無く、俺の意識は遠のいていた。

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