第73話 今までの人生で最悪の……

 あの後、火星連邦軍とオリンポス警察隊が駆けつけて来た。盗難されたプルトニウムは発見され、現場にいた実行犯は逮捕された。


 私はというと、戦車砲を使用し人型機動兵器モビルフォースを破壊したにもかかわらず、罪に問われる事はなかった。また、始末書も書かされなかった。主犯であるグラディエーターの残党は全員逮捕され、また、彼らの雇い主であるアヤベ副市長も身柄を拘束された。更には、首都の政治的混乱に乗じてクーデターを企んでいた火星連邦軍の一派もことごとく逮捕されたらしい。それらの情報をかき集めていたのは怪盗レッドフォックスだった。


 私は今、連邦首都オリンポスにある超高級ホテルの最上階、展望レストランみやびにいる。そして何故か、上司のくそババアも同席していた。


「うふふ。翠ちゃん、今日は特別なサプライズなのよ」


 あかつき希望のぞみ。私の上司だ。どこぞの女優みたいな名前だが60過ぎのババアである。職務上の評価はまあまあだが、嫌な癖がある。それは、独身の男女をくっつけようとする、お見合いさせるのが趣味である事だ。このババアが同席するとろくな事がないと知りつつも、この超高級レストランの誘惑に負けた私はここに座っている。


「あ、来ましたよ」


 私は入り口を見つめる。入ってきたのは背の低い紅葉ではなく、長身のトリニティ市長だった。


 まさか、あの市長とのお見合いなのか?

 もしそうなら、この上司の事を今まで散々くそババアと罵倒してきたことは謝罪したい。


「お待たせ。今日は沢山用意してきたよ」


 用意?

 何の事だ?


 トリニティ市長はテーブルの上にファイルの山をどさりと置いた。


「翠ちゃんにはね。絶対に良い相手を見繕ってあげるから。僕の情報網は火星一なんだよ」


 その一言で眩暈がした。私は席を立ち、トリニティに一発ビンタを浴びせてからレストランを出た。


 良い夢を見させてもらった。あははは。

 

 私の笑い声は火星の赤い砂塵と共に消えていく。そして私は、狸穴坂まみあなざかという姓を一生大事にしようと心に誓ったのだ。 

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