ほんとに素敵なきみに贈るパジャマ

つちやすばる

ほんとに素敵なきみに贈るパジャマ

 

 今年の彼女の誕生日には、パジャマを贈った。張りのあるコットン地で、濃いブルーに、縁は白。ボタンも白。彼女の濃い髪の色にはぴったりだ。一目見てそう思った僕は、それをまっすぐレジスターに持っていき「プレゼント用の包みにしてください」とすらすらと店員に言った。店から出てくるときの僕の顔の表情を見ていただきたい。まるでこれから月に行く人みたいに、不自然なほど高揚していたのだから。

 でもそれを彼女に渡したとき、僕の気分は月から地上へと落ちた。

「なんでパジャマ?」

 彼女はパジャマの襟のところをそっと持ち上げながら言った。

 僕は奇妙なほどうろたえた。

「え…。その、よく似合うと思ったし、それに買い替えなきゃとか、このあいだ言ってたし」

「あんたってさあ」

 セリフとは裏腹に彼女は満面の笑みを浮かべた。

「ほんとに、ほんとにバカだよね」

 僕はその言葉を聞いてほっとした。怒っているわけではないのだ。

 彼女は包みからパジャマを丁寧にとりだして言った。

「ふつうさ、彼女の誕生日っていえば、アクセサリーとか、コートとかモヘアのニットとか、他にもっといろいろあるじゃん」

 でも、と僕は心の中で思った。

 君はそういう大げさなものがきらいじゃないか。

 それに高級さこそないけど、このパジャマだってちゃんとしたブランドのちゃんとしたものなんだぜ。

 しかし、僕はこのことを永遠に言わないであろう。

「でも、このパジャマ、素敵だよね。映画に出てくるのみたい」

 ふと思い出したように彼女はそう言った。

 そうだろう、と僕は力をこめてうなずいた。

「ちょっと待ってて」

 彼女は包みを抱えて、となりの部屋に移った。

 僕が犬みたいにおとなしく待っていると、少ししてから、そのパジャマに着替えた彼女が、ドアの縁のうえでポーズをとった。

「じゃーん。どうよ?」

 僕が思い描いたとおり、僕の望みどおり、彼女にぴったりと合ったパジャマだった。彼女の濃い茶色に真ん中で分けた肩くらいの髪と、ほどよく離れた眠たげな目にぴったりのパジャマ。

「ほんとに素敵だ」

 と、僕はソファに釘付けになって言った。


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