第30話 凛とおでかけ

 年末年始。


 僕のスケジュールはガラガラだった。


 衣織を含む織りなす音のメンバーは全員帰省。


 久しぶりの静かな日常だ。


 と言っても凛がいるから、前よりは寂しくない。


 愛夏も年末年始、帰省しているせいか、凛もずっと家でごろごろしている。


「なあ凛、たまには一緒にどこか行くか?」


「アイススケート!」


 即答だった。でも僕はアイススケートなんてやったことなかった。


「凛、アイススケートできるのか?」


「できないよ? でも行ってみたい!」


 2人とも滑れないことに、一抹の不安覚える僕だったが、可愛い妹のリクエストに応えることにした。


「じゃ、いくか!」


「うん、じゃぁ凛、用意する!」


 凛と2人っきりで出かけるなんて何年振りだろう。


 ……いや、出かけると言っても近所の公園とかスーパーぐらいのものだった。


 電車に乗って本格的にお出かけするのは、きっと初めてだ。


 これって、世間一般の兄妹と比べてどうなんだろう?


 皆んなそんなものなのかな?


 兄妹で出かけるって、中々ないのかな?


 それとも、僕が放ったらかし過ぎなのかな?


 この辺まとめサイトでまとめてくれていると助かるのだけれども、なんか閉鎖するって知らせが来てたな。


 とりあえず僕も身支度を整えた。


 凛は用意に結構時間を掛けるタイプだが、今日はめっちゃ早かった。


 メイクは、いつも通りバッチリ。


 今まで手を抜いていたのか、それほどアイススケートが楽しみなのかは分からないが、僕も早めに用意をしていてよかった。




 ——さっきの疑問を電車の中で凛にぶつけてみた。


「なあ、僕と凛、2人でこうやって、電車で出かけるのって……もしかして初めてか?」


「そうだよ、そんなことも知らなかったのか?」


 失敗した。あんなに機嫌のよかった凛が、少し不機嫌になってしまった。

 

「ごめん……でも、兄妹って普通そんなものなのかな?」


「んーどうだろ? 凛と兄貴って双子じゃん? 同い年じゃん? 趣味も同じじゃん?」


「うん」


「凛と兄貴みたいな関係で初めてなのは、珍しいのかも知れないね」


 あう……聞かなきゃ良かった。


「なんかごめん」


「別に謝ることはないよ。兄貴が楽器屋誘ってくれても行かなかったの凛だし」


 そんなこともあったっけ?


「兄貴は相変わらず細かいことが気になるんだな」


「え、そう?」


「そうだよ、もっと他に気にするところあるぞ!」


 もっと他に気にするとこと……めっちゃ気になるじゃないか。




 ——とまあ、そんなやりとりをしている間に、目的地に着いた。


 はじめてのアイススケート……緊張してきた。


「兄貴はい、これ」


「うん?」


 凛からちょと分厚目の手袋を手渡された。これは父さんが使ってたやつ?


「どうせ用意してなかっただろ? 兄貴はプロのギタリストなんだから手大切にしろよ。自覚が足りないぞ」


 ……う……凛のいう通りだ。ぐうの音もでない。


 スケート靴のレンタルやらロッカーやら僕がオロオロしていると、凛が率先して全部やってくれた。


 ごめんね。頼りない兄貴で。




「わあー!」


 スケートリンクを見て目を輝かせる凛。こういうところは素直に可愛いやつだと思う。


 スケートリンクは思ったよりも寒くなかった。


 氷の上だからもっと寒いと思って厚着してきたのだが、失敗かもしれない。


 そしていよいよ、緊張の第一歩……。


 あれ?


 立てる?


 立てるよ僕!


 でも……これ……どうやって進めば?


「兄貴、手すりもって取り敢えず歩こう」


 僕の様子を見かねた凛らか的確なアドバイスが頂けた。


「まず、氷に慣れるところからだな」


 正論です。でも、なんかそんなところに凛の成長を感じてしまう。


 


 ——少しすると、凛はうまく滑れるようになっていた。


 僕はまだ手摺りから離れることができない。


 


 それにしても……凛……楽しそうだ。


 

 僕は正直、凛のことが苦手だった。


 いつも仏頂面で、ことあるごとに僕を小馬鹿にする可愛くない妹だと思っていた。


 まあ、それは不甲斐ない僕に、ハッパを掛けてくれていただけで、凛的には僕を思いやってのことだったのだけど……。


 凛のその気持ちを知って、僕は猛省した。


 僕には勿体ない可愛い妹だ。



「兄貴、いっしょに滑ろうぜ」


 つか、同じスペックで同じスタートで、こんなにも上達に差が出るのは何故?


「お……おう」


 僕は凛に手を引いてもらい、やっと手摺りから離れた。


「楽しいだろ?」


「あ……ああ、もちろん!」


 怖いの方が大きいけど。


 はたから見たら情けなく映るかもしれないが、これはこれでありだ。


 怖い気持ちが大きいのは本当だけど楽しかった。


 はじめての兄妹でのお出かけ。


 兄としての威厳はなかったけど、いい思い出になった。


 


 ——ちなみに今日はラッキースケベの神様も空気を読んでくれたのか、へっぴり腰の僕があたふたして、凛を押し倒しておっぱいを揉むなんてラッキースケベは発生しなかった。



 ————————


 【あとがき】


 しっかり者の凛と鳴の情けないところが、際立ちましたね……。


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『魔法学園でドSな彼女達のオモチャな僕は王国の至宝と謳われる最強の魔術師です』

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