第29話 2人っきりのクリスマス 〜衣織視点〜

 これまでの傾向だと、鳴はきっとプレゼントに極振りしている。きっとその他のクリスマスらしさには頭が回っていないはずだ。


 でもそこが、鳴のらしさでもあったりする。


 彼女としてしてサポートしてあげないと……と思った私の考えは間違えていなかった。


 凛ちゃんが『手伝わせて欲しい』と言ってくれたのは嬉しかった。凛ちゃんは鳴ラブなところがあるから、あまり良く思われていないんじゃないかと不安だったからだ。


 いい子なんだけど、楽器以外からっきしなのは鳴と同じ。


 でも、鳴よりは全然空気が読める分、苦労も多いんだと思う。


 今日の料理は、凛ちゃんだけじゃなく、ママやお姉ちゃんも手伝ってくれた。女4人でキッチンに立つのも賑やかで楽しかった。


 そういう意味でも楽しいクリスマスだ。


 ——そしてプレゼント。


 いくら鳴がプレゼントに極振りしているとはいえ、これは想像していなかった。


 ギター……まさか彼氏からもらう初のクリスマスプレゼントがギターだなんて……。


 もちろんすごく嬉しかった。


 金額云々だけじゃない。


 やっぱり気持ちが嬉しい。


 まず、こんな高価な物をプレゼントしようと思ってくれたこと。


 その気持ちが嬉しい。


 一緒に暮らしているから、鳴の頑張りは目に見えた。


 一緒に暮らしているから普通よりはハードルが高いのに、サプライズしてくれようとする鳴の気持ち。


 本当に嬉しい。


 これで鳴は私よりひとつ年下の16歳だよ。


 驚きだ。


 気持ちがあっても中々できることじゃない。本当に自慢の彼氏だ。


 凛ちゃんにプレゼントを用意していたものポイントが高い。


 しかもオマケのプレゼントじゃなくて、ガチプレゼントだ。


 はじめてのギャラ……欲しいものもあったと思うんだけど、私たちを優先してくれた。


 その気持ちが本当に嬉しい。




 ——でも、サプライズはそれで終わらなかった。


「はい、兄貴と衣織さん」


「ん、凛、何これ?」


「衣織さんと行ってきなよ」


 凛ちゃんがくれたのは夜景の見える、ホテルのディナーバイキングのチケットだった。


「学校は皆んないるし、家にも凛がいるから中々2人っきりになれないだろ。クリスマスの夜ぐらい2人で楽しんできなよ」


 ……凛ちゃん。


「いや、兄貴がこんなプレゼント用意してくれていたことも、衣織さんがクリパの準備を手伝わせてくれたことも、本当に嬉しかったよ。凛のささやかな感謝の気持ちだよ」


 なんて兄妹だよ……。


 私は思わず凛ちゃんのことをぎゅっと抱きしめてしまった。


 鳴も凛ちゃんも思いやりがあって本当にいい子だ。




 ——私たちは凛ちゃんのお言葉に甘えることにした。


 今日は冷える……ホワイトクリスマス、ワンチャンあるかも?




「まさか凛がこんなの用意してたなんて」


「本当ね、全然気付かなかった」


「僕、泣きそうになったよ」


「……しっかり泣いてたけど」


「え……本当?」


「……うん」


 別にいいけど、泣いてるの気付かないほど涙腺が弱いのだろうか?


 なんか可愛い。


 


 こうやって、夜の街を鳴と出歩くの久しぶりだ。




 鳴と出会ってからずっとバタバタしていた。


 普通の恋人同士と違い私たちには、音楽がある。


 一緒にいる時間が長くても、ずっとイチャラブできるわけじゃない。


 何も考えずに恋人同士でいれるこの時間は、地味に貴重だったりする。




「……こ……ここ」


「……そうみたいね」


 凛ちゃんが用意してくれたチケットのホテルはドレスコードが気になるぐらい立派なホテルだった。


 ていうか、このチケットいくらだったのだろう。


 凛ちゃんも鳴同様、色々無理してくれたのかもしれない。




 お料理はすっごく美味しかった! 正直また来たい。


 そして夜景。


 素敵だった。


 夜景を見た瞬間、私まで泣きそうになった。


 凛ちゃん本当にありがとう。


「衣織」


「うん?」


「僕、衣織と出会えて本当によかったよ」


 おう……いきなり何だ。


「何よ、急に改まっちゃって」


「いやあ……一緒に住んでいるから、一緒にいることが当たり前になってきているから……だから何だろう……余計に言葉として、ちゃんと伝えないと駄目な気がしてさ」


 いい心がけだね。


「僕は、衣織と出逢えて、やっと自分の足で歩き出せた気がするんだ」


 ……自分の足か。


「全部なんだよ、全部。恋愛も夢も衣織と出逢って全部変わった。だからと言って流されているわけじゃない。しっかり自分の足で歩いているよ」


 そっか……よかった。


「私も変わったわ……」


「衣織も?」


「鳴が子どもだから、今まで以上に大人になっちゃった」


「あ……あれ」


「嘘よ」


「あはは……でも思い当たる節はありまくりなんだけど」


「男の子なんだし、そんなもんじゃないの?」


「そう言ってくれると助かるよ」


「……私も鳴と出逢えてよかった」


 本当によかった。


 鳴じゃないけど、夢も恋も、鳴は色々与えてくれる。


「これからもよろしくね鳴」


「うん、これからもずっと一緒だよ衣織」


 最後の台詞は私と鳴が逆だった方が良かった気がしたけど、それが私たちだ。


 凛ちゃんがプレゼントしてくれたサプライズを堪能した後、私たちは公園で少しまったりしてから家路についた。


 恋人と初めて一緒に過ごすクリスマス。


 控え目に言って最高だった。



 ————————


 【あとがき】


 凛……ナイス!


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