第24話 凛の恋バナ

 頑張った甲斐あってリハーサルは上手くいった。プロの方々の対応力というか現場力が凄過ぎて感心しっぱなしだった。


 一曲目を合わせた時点で、バンドの欠点が洗い出され、二曲目でそれを修正。そして三曲目からは、どんどん完成度を上げるための提案がなされ、それを即、反映。


 濃密な時間過ぎて、リハーサルが終わったときには抜け殻みたいになってしまった。


 はじめて合わせたメンバーであのグルーヴ感。


 本当に勉強になった。


 リハーサルでの経験をもって『織りなす音』をさらにレベルアップさせることができそうだ。




 ——「ただいま」


「おかえり」


 リハーサルを終え、家に戻ると衣織の姿はなかった。


「あれ、衣織は?」


「実家に着替え取りに行ったよ」


「そっか」


 水臭いな……言ってくれれば手伝うのに。


「兄貴が、最近根詰めてたから、手伝ってもらうのは悪いって言ってたぜ」


 僕の心を読んだのか……お前はエスパーか!


「そ……そっか」


 どうしようかな……迎えに行こうかな。そんなことを考えていると……。


「兄貴、ちょっと相談があるんだけど」


 凛が僕に相談があるという。珍しい……っていうか、はじめてかもしれない。


「別にいいけど僕で力になれることなのか?」


「うん多分大丈夫」


「そういうことなら」




 ——とりあえず荷物を部屋に置き、凛と対面してリビングのソファーに座った。すると凛は隣に座ってきた。


 何故隣なんだと思ったけどあえて触れなかった。


 


「凛、恋してるかもなんだ」


「へー恋ね」




「……」




「え————————っ!」


 り、り、り、り、凛が恋だって!


 ま、マジか……。


 まあ、僕にも彼女がいるんだし、凛も年頃だし、分かるっちゃ分かる話だけど……。


「相手は?」


「気になる?」


「そりゃ気になるよ!」


「まあ、同じクラスとだけ言っておく」


 お……同じクラスだと……もしかして……ユッキーか、ユッキーか、ユッキーか! ユッキーには彼女がいるぞ!


「先に言っとくけど、ユッキーじゃないからね」


 そっか……とりあえずよかった。


 じゃあ、誰なんだよ……?


「はじめはそうでもなかったんだよ」


「うん、何が?」


「そいつのことな、そんなに意識してなかったんだよ」


「まあ……恋ってそんなもんじゃね……」


「そうなのか? 兄貴も衣織さんのこと意識してなかったのか?」


 ……衣織は最初から意識していた。


「いや、意識してた……」


「言ってることが矛盾してるじゃねーか」


「面目ない……」


「まあ、いいよ」


 つか、凛と恋バナするだなんて思ってもみなかった。感慨深いものがあるな。


「なんか最近ダメなんだ。そいつが特定の女子と仲良く話してるだけでイラッとしてしまうんだ」


 うん……それは嫉妬ってやつだね。


「どうすればいいと思う?」


「いや、それだけ聞いただけじゃ何とも」


「他に何があるんだよ!」


「それは僕が聞きたいよ!」


「まあ、とにかくそれが嫌なんだよ……そのイラってのを解決したいんだよ」


 ……本当に恋なのか? わからなくなってきた。


「なあ、凛はそいつとどうなりたいんだ?」


「そ、そ、そ、そんなの恥ずかしくて言えるかよ!」


 ……じゃあ何で僕に相談したんだよ。


「恥ずかしくて言えないにしても、どうかなりたいって気持ちはあるんだね?」


「うん……まあ」


 凛もこんな顔するんだな。凛は僕に弱いところなんて全然見せなかったからな。


「兄貴は衣織さんから告白されたんだよな?」


「うん、そうだよ」


 最終的には僕がしたけど。


「ど……どうだった?」

 

「どう……って?」


「いや……ほら……その」


 凛が頬を赤らめる。


「女から……その……告白」


 女子から告白される事についてどう思っているのか聞きたいのか。


「僕は、嬉しかったよ」


「そ……そうなのか?」


「うん……まあ、あの時は正直、まだ愛夏にも未練があったけど……それでも嬉しかった」


「未練があるのに他の女に告白されて嬉しいって……そこだけ掻い摘んで聞くと最低だな兄貴」


 うん……自分でも思った。


「まあ、今はそれはいいだろ」


 もしかして凛のやつ……。


「告白……するつもりなのか?」


「す、す、す、するわけねーだろバカ!」


 顔を赤くして取り乱している。案外可愛いところあるじゃないか。


「好きなんだろ?」


「わかんない……」


「いや、でも状況的に聞くと好きって事になると思うんだけど?」


「……やっぱりそうか」


 凛の表情が沈んだ気がした。




 ——そして、なかなかのタイミングで衣織が帰ってきた。


「ただいま」


「「おかえり」」


「鳴も帰ってたのね」


「うん」


「じゃ、兄貴、この話の続きはまた今度」


 衣織にも聞いてもらえばいいのに。


「何の話?」


「何でもないよ」


 凛はそそくさと部屋に戻っていった。


 そして入れ替わるように衣織が僕の隣に座った。


「鳴には分からないかもね」


「え……何が?」


「何でもない」


 意味深な一言だったけど、この後の衣織は普段通りだった。


 僕には分からないってどういうことだろう?



 ————————


 【あとがき】


 衣織のひとこと……意味深ですね。


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