第108話 非常用ハシゴからこんにちわ
母さんから告げられた突然の同棲解消の話に俺と結は固まってしまう。特に結なんて隣で今にでも泣きそうな顔だ。
そりゃあ俺だって最初は解消したいと思ってたさ。だけど今じゃ二人暮らしも慣れて、結とも想いが通じあってのこの生活なんだ。ここで同棲解消っていうのも嫌だな。
「二人とも何故? って顔してるな」
「そりゃそうだろ。いきなりだからな。しかしなんでまたそんな話になったんだ? 説明はしてくれるんだろ?」
「モチのロンだ。その前に……晃太お前、千賀さんの再婚相手の娘さんに好かれてるんだって?」
「…………」
俺は父さんの視線から目を逸らす。
な、なんで知ってんだよぉ!? 俺ら四人しか知らないはずだろ!? いや、一応もう一人いたか。だけど香澄はもうあっちに戻ったしなんで……あ、秋沢か!? 部屋借りる時にそこまで言ったのか!?
「おいおい、目を逸らしちゃってなんだ? ん? 結ちゃんに柚ちゃん。更にはJKにまで好かれていいご身分だなぁおい。んん?」
「うぐっ……!」
隣の結の視線が痛い。「なんでお義父さんが知ってるんですか? 自慢したんですか? モテてるって自慢したんですか?」って目で言ってる!
「なんでお義父さんが知ってるんですか? 自慢したんですか? モテてるって自慢したんですか?」
あ、口でも言ってた。
「い、言ってないぞ!? 言う訳無いだろうが!」
「ならどうして……」
「結ちゃん大丈夫。コイツはそんなことを胸張って言えるような奴じゃないヘタレだから」
「はい。それは知ってますが……」
……え? 知ってるって……え? 結さーん?
「それに自分の彼氏がモテるってのは嬉しいもんだろ? 俺も有華に言われた事があってなぁ」
「確かに言いましたね〜。モテるだけなら良かったんですけどね〜」
アンタ何やったんだよ……。
「ん、まぁそれはどうでもいい。それでだな? その千賀さんが娘さんをそれはそれは可愛がっているみたいでな? その……なんだ。お前とくっつけようとしているらしいんだ」
「…………はぁ? それと同棲解消の何が関係あるんだよ」
「あるんだよそれが。普通だったら『ウチの息子は恋人と同棲してますから』で済むんだけどな? こう言っちゃなんだけど、お前は社会人。結ちゃんは未成年。その二人がただ付き合ってるならまだしも、同棲ってのを世間的に良く思わない人もいるってことだ。まぁ、俺はその辺気にしないけどな? でも、その気にする人が千賀さんって訳だ。もちろんお前達の事も聞かれた。だから念の為、一人暮らしする結ちゃんの保護者として、結ちゃんの母親が信頼してお前に頼んだ──って事にしておいた」
「め、めんどくせぇ……。つーかその説明したんなら解消する必要なくないか?」
「だろ? 俺もそう思うわ。だけどな? 『それは別に一緒の部屋じゃなくてもいいのでは? お姉さんも引っ越してきたんですよね?』って言われてなぁ……」
「あ、あ〜……」
なんとなくわかった。つまりあれだ。秋沢と俺をくっつけるのに結が邪魔だから、どうにかこうにか俺達を離そうとしてんだな。
いや、娘を想う父親の気持ちなんだろうな、ってのはわかるよ? だけど……だけどなぁ……。
これ、結はどう思ってんだろ?
そう思って隣を見ると、結は何やら深く考え込んでいるような表情をしている。少し経つと、何かを思いついたような顔をして立ち上がり、
「晃太さん、みなさん、少し待ってて下さい」
「へ?」
そう言って部屋を出ていく。な、なんだ? もしかして秋沢に文句言いに行ったとか? まさかな……。
そして五分程経ったあと、ベランダからカンカンという音と、微かに結の「晃太さぁ〜ん」って声がする。
え、まさか……
ベランダに出ると、音と声は下から聞こえる。っていうか、非常用ハシゴの蓋を下から叩かれている。
そして俺がロックを外して蓋を外すとチェーンのハシゴが垂れ下がり──
「ばぁっ!」
結が下のベランダからハシゴを登って顔を出した。
「ばぁって……」
「晃太さん! 家を出る時と帰る時はお姉ちゃんの部屋に入って、それからココを使って晃太さんの部屋に行けばバレませんよ!」
…………そだなー。
「なぁ晃太。結ちゃん凄いな……」
「言うな。わかってるから」
「へへ〜♪」
結、父さんは多分褒めてるんじゃないと思うぞ? 母さんはサムズアップしてるけど。
そこで下から柚の声が聞こえる。
「ちょっと結!? パンツ見えてるから! なんでバレンタインに妹のパンチラを見なきゃいけないのよ! 邪魔したら悪いと思って自粛して秋沢さんにお酌してもらいながらアニメ映画見ながら淋しく飲んでたのにっ! チクショウ!」
「おおー! パンチラじゃなくてパンモロー! これでタイツ履いてたらセントバレンタイツだったのに」
誰がうまいことを言えと?
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