第106話 その指先の行方

「それでは、私と晃太さんが恋人になって初めてのバレンタインパーティーを始めたいと思います!」

「お、おぉ〜」


 食事も終わり、なんだか思った以上に盛り上がって宣言する結に、俺は戸惑いながらも拍手で応える。

 嬉しいっちゃあ嬉しいんだが、この温度差よ。


「私が晃太さんを好きになってずっと片想いし続け、やっと……やっと恋人としてのチョコが渡せる時が来ました! 今までも本命で上げていたのに全然気づかれなかったこの数年間。今日は嬉しすぎて全身にチョコを塗って私ごと食べてもらおうかとも思いました!」


 おいやめろ。


「ですが、それは流石に引かれると思って辞めました」


 それでいい。


「なので、今日は一部分だけにします」


 ……なんて?

 俺の頭ではなんて言っているのか理解が出来ないでいると、結はチョコレートファウンテンから小さい器に溶けたチョコを少し移した。

 なにをするつもりなのかと見ていると、結はその移したチョコに指先を少し付け、離すと息を吹いて冷まし、また指先付ける。

 ……ほんとなにしてんだ?


「ん、このくらいですかね。熱くないし固まってもいないし。えいっ」


 何してんの!? なんで指突っ込んだ!?


「それでは晃太さん。あ〜ん」

「…………え?」

「え? じゃないですよ? バレンタインのチョコです。食べてくれないんですか?」

「いや、だって、え? それ、結の指じゃね?」

「そうです」

「そうです。じゃなくてだな」

「ちゃんと全部食べてくださいね? はい、あ〜ん」


 おおぅ……。俺の意思は関係無しかよ。恥ずかしいんだが?

 でもまぁ、誰が見てるわけでも無いからいいか。

 こんな完全にバカップルの行為、誰にも見せれないし言えないもんなぁ。

 てなわけで、


「そんじゃ、いただきます」


 俺は覚悟を決めて結の指を口の中に入れた。

 ん、甘いし美味い。けどこれ、ただ口に入れただけじゃ全部取れないな。結は全部食べろって言ってたし、舐めないと無理か。

 そう思って俺は舌を動かす。


「んんっ!」


 ……変な声だすなよ。


「だ、大丈夫です。ちゃんと全部食べ──んんんっっ!」


 目線だけで結の顔を見ると、その頬は赤く上気していた。な、なんかこれ……いや、何も言うまい。

 もうヤケだ。食べろって言われたからには食べないとなっ!


 そう思って残りを舐め取ろうとした時、結の指が俺の口から抜けるか抜けないかの所まで動いた。

 俺はそれを追いかける。

 するとまた動く。やがてその指は結の口元まで運ばれて行き──


「はい、一等賞でゴールです。ちゅっ……んむ」


 唇と唇が触れた。

 結の舌は俺の口の中に残っているチョコを全て舐めとるかのように動き、やがって小さな水音を立てて唇が離れる。


「んふっ。ふぁ……おいしっ♪」


 そして俺はその姿を見たあと、自分の指にチョコを付けて結の目の前に差し出す。


「結……」


 結はその指先をペロッ舐める。そして四つん這いになりながら俺の膝に手を置くと、とろんとした目で下から見上げるように俺の目を見るとこう言った。


「晃太さんのゴールは……どこですかぁ?」


 そして俺は──


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