第102話 お帰りのキスを

「ち、違うわっ! んなわけあるかぁ! あと、学校でその事を口に出すなっ! この阿呆が!」


 俺は血相を変えて倉庫の入り口で叫ぶ柚を中に引き入れ、ドアを閉め、そのドアに手を付いて言う。


「こ、こ、こここ、晃太の壁ドンだぁ……」

「こっちは怒ってるんですがねぇ!?」


 なんで喜んでるんだよ。ってこの体勢のせいか。

 聞かれないように急いでたからそこまで考えてなかったな。

 俺はすぐにドアから手を離して仕事の準備に戻る。


「あっ……」


 あっ、じゃない。


「で、なんか用か? こっちに来たってことは仕事の話だろ?」

「そうそう、それなんだけど……ってそれよりも! さっきの子はなんなの!?」


 あーやっぱり聞かれるよな。まぁ、後で言うつもりだったからいいか。


「実はかくかくしかじかでな」

「鹿がどうしたのよ」


 親父が母さんに使ってる方法は通じなかった為、ちゃんと説明することにした。


「ってなわけだ。俺は悪くない」

「そう。久我くんが…─。いい子すぎるとは思ってたけど、そういう裏があったのね。けど……」

「けど?」

「晃太が篠原さんにした行動はちょっと……ね」

「ちょっと? なんだよ」

「ちょっと羨ま──じゃなくって、ちょっと酷かったんじゃない?」


 何か言いかけたことは聞かなかったことにする。


「まぁ少しやりすぎたかな? とは思うけどさ。けど、変に中途半端に言うよりはいいだろ。何かあってからじゃ遅いからな」

「まぁそうだけど。気にしてるのはそこじゃないのよね……」

「そこじゃない?」

「うん。もしあの子があんたに無理矢理押さえつけられた。とか他の人に言ったらどうするのよ」

「…………あ」


 やっべ。そこまで考えてなかった……。

 どうしよう。


「まぁ、聞いた感じだと心配なさそうな気もするけど……はぁ」

「なんだよそのため息は」

「なんでもないわよ。じゃあ私は行くわね」

「おう。ってここに来た要件は!?」

「あぁ、そうだったわね。たいしたことじゃないわ。はいこれ、今月の給料明細よ」

「おっ! やった! ってなんでこれをお前が? 連絡くれれば取りに行ったのに」


 まぁ、手間が省けたけどさ。


「な、なんとなくよ」

「はぁ?」

「なんとなくって言ったらなんとなくなのっ! じゃあね!」


 そういうと柚はドアを開けて出ていってしまった。

 なんだってんだ。


 まぁいいや。

 とりあえずは今日の仕事を終わらせてからだな。後は久我の交友関係も少し調べるか。



 ◇◇◇



「ただいま〜」

「晃太さん、おかえりなさい♪」


 家に帰るといつも通りにエプロン姿の結が出迎えてくれる。


「晃太さん今日給料日でしたよね? どうでした?」

「ん、ほいこれ給料明細」

「はい、おつかれさまでした♪ 後で家計簿つけないと……って、ふふっ」

「どうした? いきなり笑ったりなんかして」

「いえ、こうしてるとホントに夫婦みたいだなって思いまして。ね、旦那様?」

「旦那様って……」

「えーっ? だってこの前そう言ってくれましたよね〜? ねぇ旦那様? 帰ってきたらすることがあるんじゃないですか? ん〜」


 結はそう言うと目を閉じて俺を見上げてくる。

 唇を軽く突き出しながら。


 俺はそれに答えるように唇を重ねる。

 その途端、結は俺の首に手を回してきた。


「んふっ……んっ」


 俺が更に舌を侵入させると、結もそれに応えてくれた。


「ぷぁ……もう、晃太さん……玄関じゃダメですよ?」

「わかってる。けどもう少し」

「もうっ……」


 結は俺の大切な存在。

 誰にも渡さないからな。

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