第99話 結、ギャル化
完成した夕食を二人で食べ、順番に風呂に入った後は、部屋でまったり。俺はぐったり。『一緒に入ります』って言って服を脱ごうとした結を説得するのに少し体力を使ってしまった。
だってあの調子で一緒に風呂なんて入ったら、のぼせること間違いなしだ。それはマズイ。
で、今はそのせいで少しむくれて頬を膨らませている結の、機嫌取りの真っ最中だ。
「むぅ……一緒に入るだけで何もする気なんてなかったのに……」
「いやいやいや。絶対嘘。そのセリフを言って何もしない奴なんていない。それに、いつもだったら茶碗洗ってから入るじゃん。なのに今日は、俺が『風呂入るわ』って言った瞬間、途中で投げて来たじゃん。しかもエプロン付けたまま」
「それはあれです。一刻も早く晃太さんの背中を流してあげようという使命感です」
「いつもなら水着用意してるのに?」
「何言ってるんですか? 普通お風呂に水着なんて着て入りませんよ? しかも今は冬ですし」
「なっ!? それをお前が言う!?」
「私の座右の銘は臨機応変です」
「今決めたろ?」
「………………はい」
ほら、これだ。
「た、たまには良いじゃないですかぁ! 今日はなんかそんな気分だったんですっ!」
「そんな気分?」
「はい。なんか晃太さんに新しい女の影が現れそうな気分です。ここで私に繋ぎ止めないと、無自覚モテ行動をしそうだったので」
お、おぉう……。すげえなその勘。まさに今から今日の事を話そうとしてたのに。てか無自覚モテ行動ってなんだよ。初めて聞いたわ。そんな事した記憶はまったくないんだが!?
「晃太さん? 返事が無いんですけど、もう既に…………何か心当たりでも?」
声低っ!
「あー……。えっとだな? 今日の帰りなんだけど……」
俺は放課後に起きた出来事を結に教える。
時折聞こえる『へぇ……』『ふぅん……』の声にビクビクしながら。
そして全て話終えると、結は考え込むような表情になり、やがて考えがまとまったのか、俺の顔を見ながら口を開いた。
「篠原……莉音さんですか。同じクラスではないですけど、確かに二年生にいますね。だけど話した事は無いので、そんな心配されるような関係でもないんですが……」
「そうなのか?」
「はい。私は大体いつも和華ちゃんと一緒ですし、後は同じクラスの仲が良い二、三人くらいですね」
「あれか。女子特有のグループみたいな感じか」
「ですね。言い方はあれですけど、やっぱり合う合わないはありますから。だからこそ不思議なんです。彼女は割りと派手な人達と一緒にいるので。だから彼女が久我君の事が好きだとして、わざわざ牽制としてそんな事を言ってくるとは思えないんですよね。それに私、彼の事は大勢の前でバッサリ断ってますし」
「なるほどね。まぁ、確かにそうだよな……。う〜ん、不思議だ」
結にも何の見当もつかないらしい。
だよな。結は全校生徒の前でこれでもかってくらいバッサリ切り捨ててんだよな。だから釘を刺す必要も心配する意味もない。
だとしたらなんで?
何もなけりゃいいけど……。
「ところで晃太さん?」
「ん? なんだ?」
「その篠原さんみたいなギャルっぽい子、好きなんですか?」
「いやいや、まさか。全然だぞ」
「晃太さん……昔はギャル系が好きだったんですよね?」
「…………なぜそれを」
「お正月にお姉ちゃんから聞きました」
「あ、あの野郎っ! けどそれは昔の事だぞ!? それこそ十年前の話だ」
「そうなんですか?」
「いえすっ!」
「じゃあ、ちょっと待っててください」
結はそう言うと俺の膝の上から離れ、自分の部屋の方へと歩いていく。
ガサゴソと音がして、その数分後──
「こうちゃんいぇいいぇい! 何してり〜?」
現れた結の姿は、スカートを太ももの辺りまで短く、ブラウスはリボンが解かれ、ボタンは胸元まで開いて薄紫の下着が見えている。そして髪型をツインテールにして、ダブルピースして現れた。
「か、かわいっ!!!」
「…………まだ好きなんじゃないですか」
「はっ!?」
再び視線を向けるとそこにはジト目の結。
「ち、ちがうっ! これはあれだ! 結がやったから可愛いのであって、べつにギャルっぽいなら誰でもいいわけじゃないぞ!?」
「ふぅ〜ん……なら」
「結さんっ!?」
結は四つん這いになるとゆっくりと俺の目の前まで来る。そして膝の上に優しく手を置き、首元のリボンを引っ張ると小さく呟いた。
「今日はこのまま? それとも……着替えますか?」
ああっ! 究極の選択っ!!
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