第98話 お姫様抱っこ。そして向かう場所は……
長い長いキスが終わり、結の唇が離れたことによってその顔の全てが見える。
目はとろんと潤んで目尻は下がり、頬は赤く染まっている。口からは、小さく何度も息を吸っては吐く音が聞こえてきた。
まぁ、あんだけ長くキスしてればそうなるよな。
俺もちょっと酸欠なりそうだったし。
少しの間見つめ合うと結は前を向き、俺に背中を預けるように倒れ込んできた。
「はふぅ……晃太さん、どうですか? ふにゃふにゃの刑は……」
「あぁ、これは……大変だな。頭の中までふにゃふにゃだ。だからまた、この刑をされるような事をするかもしれない」
「もう……それじゃあ罰にならないじゃないですかぁ……」
まぁな。むしろご褒美に近いだろう。
「ふぅ……さて、少し休んで落ち着いたので、すぐにご飯作っちゃいますね─……ひゃっ!?」
そう言いながら結は立ち上がろうとするけど、足に力が入ってないみたいですぐにバランスを崩し、また俺の膝の上に戻ってきた。しかもその体勢は、座ったままでお姫様抱っこをしているような感じ。
「おかえり」
「た、ただいまです……。えっとですね? その、あ、足に力が入らなくてぇ……あぅ」
結は何が恥ずかしいのかわからないけど、赤くなった顔を手で覆ってしまった。
「どうした?」
「な、なんかこういうのは恥ずかしいんですよぅ!」
そうか。恥ずかしいのか。
……俺にはよくわからないな。
胸元開いて谷間を見せてきたり、下着姿で布団に潜り込んできたりする方が恥ずかしいと思うんだけど……。不思議だ。
けどまぁ、これが恥ずかしいのなら……
「よいっ……せっと!」
「きゃっ! わわわわっ! え!? な、なんですか?」
俺は結をお姫様抱っこしたままの状態で立ち上がる。急に立ち上がったせいか、結はビックリしてしがみついてきた。腰は──うん、大丈夫だな。
「何って…見たまんまだけど?」
「えっ!? 何するんですか? ご飯もまだなんですよ? 早くないですか!?」
「うん? だから台所に行くんだけど?」
「あ……そうですか。そうですよね。……ベッドじゃないんだ……」
お〜い。聞こえてる聞こえてる。なんで凹んでるんだよ。自分でも早いって言ってたじゃんか。何を期待してるんだ何を。
「ほら、とりあえず腹ごしらえしようぜ? 俺、もう腹が減って腹が減って……。俺も料理手伝うからさ」
「むぅ……。でもそうですね。確かに私もお腹空きましたし」
「今日は何を作るんだ?」
「そうですね……。チーズグラタンなんてどうですか?」
「お! いいじゃん! じゃあ俺はオーブンでチーズが焼けていくのを見てるわ」
「それ、手伝いっていいます?」
「まぁまぁ。そうと決まったら早速作ろう」
「もうっ!」
そして俺は歩き出す。もちろん結をお姫様抱っこしたまま。
「って晃太さん!? このまま行くんですか!?」
「ん? 別に誰も見てないからいいだろ?」
「それはそうですけど……料理作るために離れるのが辛くなっちゃうじゃないですかぁ……」
「なら料理中に後ろから抱きついてるか?」
「ぜひっ!」
「冗談だよ……」
「あ、でも、あまり手を動かすのはダメですよ? スイッチ入っちゃいます」
「だから冗談だっての!!」
「うぅ……。ムズムズするのに……」
我慢しなさい。
そして夕飯の準備が始まった。
まぁ、結局俺はオーブンを眺めてるだけで終わったんだけど。
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