第97話 今、断罪の時 【ふにゃふにゃの刑】

 さて、俺は今何をしているかと言うと、結の前で正座しています。場所は俺の部屋の方。

 それは何故か?

 俺にもわからない。帰り際の事もまだ話していないし、なんならアパートに帰ってきてから五分と経っていないからだ。


 部屋に入るなり「あ、おかえりなさんんっ! ……こ、晃太さん。ちょっとそこに座ってください。お話があり……えへへ……あります」って言われたからだ。その顔はひたすらニヨニヨっと緩んでいて、常に口角があがりっぱなしなんだが、なんでなのかがわからない。いやぁ〜ホントにわからないなぁ。

 と、すっとぼけるのもこれくらいにしておくか。


 あれだな。昼に俺が結の目の前で母さんにした電話が原因だろう。そこまで喜んでくれるのは嬉しいんだけど大丈夫か?

 キャラが崩壊している様な気がしないでもないんだが……。ほら、自分でも自覚しているのか、上がった口角を下げようとして、手で下に引っ張っているからちょっと変顔チックになっる。まぁ、可愛いんだけど。


「……コホン。晃太さん。なんで座らされてるかわかりますか?」

「あれだろ? 昼の結婚宣言の電話のせいだろ?」

「ふわぁぁぁ! は、ハッキリと言わないで下さいよ! 心臓がドクドクなっちゃいます! あ、直接触って確かめます? な〜んて! 本気ですよ?」


 本気かよ。けどそれは後でな。だから服を捲るな。


「わかりますか? って聞かれたから答えたのに……」

「それはそうですけど……。ってそれは別にいいんです! 晃太さんにわかりますか? あんな事を言われた後にギュウもチュウも……も出来ないままで授業に戻らないといけなかった私の気持ちが! 罪です! これは大罪です!」


 よりにもよって大罪ときたか。【……】に入る部分が少し気になるけどそこは敢えて突っ込まないでおく。てか学校でイチャつけるかよ!


「えっと……それでその罪はどうすればいいのでしょうか?」

「ふふん♪ その言葉を待っていました。今から晃太さんは、私に何をされても抵抗しちゃダメです!」

「ちなみにどんなことをするつもりなんだ?」

「まずは……唇がふにゃふにゃになるまでチュウの刑でっす!」


 結はそう言うと、正座した俺の上にぴょんと乗ってくる。だが、キスと言ったわりには何故か後ろ向きだ。


「そのまえに、まずは強くぎゅ〜ってしてください。私の体が晃太さんに埋まる程に」

「わかった」


 俺は言われた通りに後ろから強く抱きしめる。俺の腕が結の胸を形を変えて押しつぶし、背中は俺の胸元に触れてない部分がない程に密着しているが、それでもなお抱きしめた。


「んっ……ふぁ。晃太さん……もっと……」


 結の体は細いのにビックリするくらいに柔らかく、このまま抱きしめ続けたら抱き潰してしまいそうだ。


「結……」


 俺が耳元で名前を呼ぶと一瞬体がビクッとなる。

 それに合わせて少し抱き締める力を弱くすると、結はゆっくりと顔だけ振り向き、右手を伸ばして俺の頬をかるく撫でる。


「晃太さん……好き。離さないで……」

「あぁ」


 結の想いの言葉に俺が短く返事をすると、もっと顔を近くに、とでも言うように右手に力が込められた。

 それに合わせて俺は首を下げ、触れるか触れないかの距離まで近づく。

 そして──


「私をドキドキさせすぎちゃう悪い晃太さんには……こうです……」


 結の柔らかい唇が押し付けられた。


「んっ……んっ……」


 最初はついばむように何度も触れては離れるを繰り返し、それが終わると今度は、絶対に離さないかのように強く唇を押し付けて吸い付いてくる。


 結は俺の唇がふにゃふにゃになるまでって言ってたけど、その前に俺の頭の中が溶けてしまいそうだよ……。

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