第95話 ちょっとしたイタズラ
そして俺は誰も居なくなった倉庫で弁当を食べ、ストーブの前でお茶をすすり、予鈴と同時に昼前に中断した仕事に向かう。
つまり、結のクラスがある廊下に戻る事になる。
あの後、顔を真っ赤にしながら立ち去った後に結から届いたメッセは三通。
『バカバカバカバカバカー! いつもの表情をしてるつもりでも一分と続きませんよぉ! どうすればいいんですかぁ!?』
『あ! でもでも! バカって言ったからって嫌いじゃないですからね!? 大大大好きですから!』
『友達にずっとニヤけてるって言われました……』
う〜ん。俺も自分でなんであんなことしたのかわからない。勢いって怖いな。後悔はしてないけど。
とりあえず後で謝る……のはなんか違うから、逆にもっと甘やかしてみよう。どんな反応するのかが少し楽しみだ。
さっきみたいに取り乱して慌てる結の姿と言葉は、なんだか新鮮で可愛かったもんなぁ。
さて、色々と作戦考えてみるか……。
◇◇◇
で、現在俺は授業が始まって静まり返った廊下で蛍光灯交換作業の続きの真っ最中。ちょうど今やってる場所が終わり、次は結のクラスの前だ。
脚立を持って数メートル歩いてまた置く。廊下側の窓からは授業を受けてる生徒達が見える。音や声は聞こえないが、結構みんな真面目に受けてるみたいだ。ちなみに教壇に立っているのは柚。そういえば初めて見るかも知れないな。ちゃんと先生やってんじゃん。
そして結を探してみると、窓際の席の前から三番目にその姿を見つけた。
お? なんだ。あれだけ言ってたわりにはちゃんとして──あ、今ニヤけた。そして髪を掴んで口元に持ってきてそれを隠してるな。そして後ろの席にいる和華ちゃんがそれを見てクスクスと笑っている。
そっか和華ちゃんには言ってるんだもんな。そりゃそうなるか。あ、和華ちゃんがこっちに気付いて小さく手を振ってきた。おっとマズイマズイ。仕事仕事っと。
俺は再び仕事に戻る。脚立に乗ってまずは一本交換。そのついでにまたチラッと教室内を見る。珍しいのか、俺の作業を見てる生徒もいる。柚も気付いたっぽいが、そこはさすが教師。表情一つ変えずに授業を進めている。
そして、いつから見ていたのか知らないけど、結と目が合った。だんだん顔が赤くなっているのがわかる。
ここでちょっとした悪戯心が俺の中に芽生えた。
念の為に周囲を見渡して、他にこっちを見てる生徒がいなくなったのを確認すると、俺は結に向かって……ウィンクしてみた。まぁ、ちゃんと出来てるかわからないけど。
それを見た結は──顔を更に赤くした後、髪で顔を隠すと机に伏せて顔を隠してしまった。
う〜む。どうやら笑わせることには失敗したみたいだな。
いつの間にか柚にはジト目で見られてるし。あ、和華ちゃんがめっちゃ笑ってる……。見られてたのか……。
ブブッ
その時、ポケットに入れておいたスマホが震えた。
見ればそこに表示されていたのは結の名前。目を結に向けると、髪で隠した顔から少しだけ隙間を作りってこっちを見ている。
なんだ?
『トキメキ死するとこでした』
……初めて聞いたぞ。ソレ。
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