第93話 大・暴・露!

 とりあえず結には、朝の事情を簡単に説明した文を作ってメッセで送っておいた。

 ホントなら直ぐに会ってちゃんと説明をしたいけど、今からじゃな……。すぐ仕事始まるからしょうがない。返事はすぐに来た。


『まったく。お姉ちゃんってば……。そういうことだったんですね。分かりました』


 特に何か文句を言われる訳でもなく、いつも通り物分りがいい結。だけどホントは嫌なはずなんだ。なのに嫌味の一つも無い。俺はもっと気をつけないとないけないな……。

 後で仕事の合間にでも、何か結の為になること、そういう嫌な気分になった事を吹き飛ばすような何かを考えてみるか。



 で、今日の作業は廊下の蛍光灯のチェックと交換だ。切れかけている物、切れている物を新しいやつと交換していく。

 左肩には脚立。右には新品の蛍光灯を持ってまずは一階から。終わると今度は二階。結のクラスがある階だ。思ったよりも一階で時間がかかってしまって今はもう昼前。これは残りは午後からだな。


 脚立に登って天井に手を伸ばしながらぼや〜っとそんな事を考えていると、いつの間にかチャイムが鳴って生徒たちが教室から出てきた。その中には結の姿も見える。軽く目で追うと結と目が合い、「おつかれさまです」とでも言いたそうな顔で、周りにバレないように小さく微笑んでくれる。だから俺もそれに目だけで返そうとすると、横から久我が出てきた。なんだこいつ。しかも俺に向かって真っ直ぐ歩いてくる。そして俺のすぐ前まで来ると、やけに優しい表情をしたまま話し出した。


「用務員さん……どんまいです」

「……え?」

「僕も気持ちはわかります。お互い頑張りましょう」

「はい?」

「では! 作業おつかれさまです!」

「あ……ども」


 いや、なに!? なんでいきなり慰められてんの!? わけわかんないんだけど! ほら、俺との間に入ってきたから結がちょっと睨んでる。しーらね。



 ◇◇◇


 その後、俺も倉庫に向かって弁当を開くと、ちょうどそこで柚が来た。


「やほ。いいかしら?」

「おう。なんだ?」

「ほら、久我君の事なんだけど」

「あぁ。つーかついさっき会ったぞ。なんか知らんけど、いきなり慰められるような事言われたんだが? お前何か言ったのか?」

「うん、まぁ。それでなんだけど……あのね? 最初はもう、私と晃太が付き合ってることにしちゃえばいいかな〜? って少し思ったのよ。そうすれば彼女の妹ってことで、晃太と結が一緒にいても変じゃないでしょ?」


 おいまさか。それを言ったんじゃないよな? いや、違うか。それでどんまいは無いよな。

 それより、


「おい。それは──」

「わかってる。ちゃんと聞いて」


 そんなのは認められない。嘘でも結以外と付き合ってるなんて事には出来ない。そう思って口を出そうとするけど、それは柚に止められた。


「でも、そんなの結が耐えられるわけも無いし、私だって嫌だわ。そんなの自分が惨めになるだけだし、ありえないもの」

「……じゃあなんなんだ?」

「そ、そんな怖い顔しないでよ……。だから、ちゃんとありのままを言ったの」

「ありのまま? なんて?」

「あの用務員は元カレで、昔私がフッた男よ。って」


 ……は?


「あは、あはは……。先に謝っておくね? ごめん!」


 おいおい。ありのまますぎるんだが!?

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