第92話 人の噂も?
翌朝、雪でも降りそうな寒さの中を仕事に行くためにせっせと歩く。
昨夜はあの後、酔った柚を秋沢に連れて行ってもらい、二人きりの時間が減った反動でいつもより甘えん坊になった結の相手をして眠りについた。
長期の休み明けで、その上普段より遅く寝たにも関わらず、いつも通りの時間に起きる結にはびっくりした。自分の目覚ましのアラームで起きたら隣にいないんだもんな。これが若さなのか。
で、眠気と寒さに耐えながら歩いているとチラホラと生徒達の姿も見えてきた。
が、なんかおかしい。めっちゃ見られてる。主に男子生徒に。
いや、見られてるどころじゃないな。睨まれてる気がする。なんだってんだ?
「おい、あいつだってよ。柚センセのカレシ」
「マジかよ。おっさんじゃん。笑うわ」
おっさんって……。
「へぇ〜結構カッコイイかも?」
「う〜ん……そうかなぁ? まぁ悪く無いとは思うけど……」
「無し」
おい最後の奴。バッサリすぎるだろ。もっとオブラートに包めよ! 聞こえてんだよ!
そして、そんなような会話が聞こえてきたおかげで、俺への視線の意味が分かった。
昨日の事がめちゃくちゃ広まってんじゃん。早いよ。まだ一日も経ってないんだぞ?
これどうするんだよ……。柚は久我に違うって事をちゃんと言うって言ってたけど、もう手遅れ感が凄い。まいったなぁ……。
そう。参ってるんだよ。頭抱えてるんだよ。なのになんでこのタイミングなんだ!?
「あ、晃太おはよ……。頭痛い。私昨日いつ自分の部屋に帰ったっけ? 記憶が……」
コンビニがある方の道から出てくる柚。手には栄養ドリンクらしきものが入った袋を持っていた。おい初代聖女様。グダグダだぞ。そしてもう少し話す内容考えろ。周りに生徒いるんだから。
「お、大人の会話だっ!」
「記憶が無いって……」
ほら見ろ! またありもしない事を捏造されそうだ! このままではマズイ。そう思った俺は、自分に出来る限りのさわやかな笑顔を作り、柚に向かって微笑みながら言ってやった。
「あぁ、天音先生。おはようございます。昨日は職員での懇親会お疲れ様でしたね」
合わせろ。合わせろよ……。
「なんだ。デートとかじゃないじゃん」
「みたいだね。なんか呼び方も他人行儀だし」
よしっ! いい感じだ。これがこのまま広まってくれれば、朝からこんな睨まれなくても済む!
柚、分かってるな? 昨日、さんざん結に言われたもんな? 頼むぞ?
「は? え? ちょっと晃太? いきなら何言ってるの? ちょっと待って。その顔ズルいってばぁ……もう」
はいダメでした。全然通じてなかった。
「おい柚。昨日結にあれだけ言われただろうが」
「……あっ! そうだった。おはようございます。用務員さん。今日も寒いですね」
今更感がハンパないけど。まぁいいか。
なにもしないよりは……な?
「ちょっと! 今顔近かったよ! キャー!」
「うそ!? ここで!?」
……最近の学生、妄想力高すぎじゃないか?
「まぁまぁ。ほら、人の噂も七十五日って言うじゃない?」
「そういう問題か?」
「へ、へへ……」
その後、俺がいつもの用務員倉庫に着いて準備をしている時にスマホが鳴る。相手は結。
『晃太さん? 通学路でお姉ちゃんとなにしてたんですか?』
生徒の誤解を解く前に、まずは結か。
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