第91話 間接ちっす

 目の前のテーブルに温め直した唐揚げと他のおかずが並ぶ。う〜ん、流石にこのテーブルだと四人じゃ狭いな。

 まぁそれはともかく、ようやく夕飯にありつける……。

 ちなみに並びは、俺の右側のキッチンに近い場所に結。左側には秋沢。そして向かいに柚だ。


「まったく……少しくらい我慢できないのかしら。ちょっとでも時間さえあればイチャコライチャコラして……まったくもう。ズルいズルいズルい」


 柚がブツブツと文句を言いながら大皿に箸を伸ばす。横には空き缶。これはもうそっとしておこう。


「こうたん、ボクともする?」

「しないわっ!」

「大丈夫。リップクリーム塗ってるから。だからノーカン。保湿の壁が直接触れるのを防ぎます。モグ」

「んなわけあるかよ!」


 こいつは何言ってんだ、そしてちゃんと飲み込んでから喋れ。俺が秋沢のとんでも理論に呆れていると柚まで手を挙げて、そのまま野菜炒めの油でテカテカになった唇を指差しながら変なことを言い出した。


「あ! じゃあ私もする〜! 油の壁が直接触れるのを防ぐから大丈夫!」

「お前ら揃いも揃って阿呆か。しかも結の前で堂々と……は今更か」

「そうですね。今更ですよ。もう慣れました。それに、晃太さんはもう私の彼氏なんですから」


 慣れるもんなの? いやまぁ結がいいならそれでいいんだけどさ。

 そんな事を考えながら俺も箸を伸ばす。するとそこで左腕の袖が引っ張られた。


「こうたんこうたん」

「なんだよ──んガッ!」


 秋沢に呼ばれて振り向くと、いきなり目の前に唐揚げが迫ってきて、そのまま口の中に押し込まれた。


「きゃっ。ボクの食べかけの唐揚げ食べられちゃったー。間接ちっすー。ボクの一部がこうたんの体の中にー。はずかしー」


 棒読みにも程がある。そして言い方。なんだ? 今度は少女漫画じゃなくて薄い本でも見たのか? それはやめなさい。


「秋沢さぁぁぁん? 何をしてるんですかぁ〜? それはちょっと見逃せないんですけどぉ〜?」

「見逃せないなら見なければいい?」

「もう見ちゃったんですっ!」

「天音先輩。いい? これはこれからの二人にとって大事な事。油断したらこんな事をする子が現れるかも、しれない。ということをボクは教える為に……ね?」


 わけわからん。ツッコミたいけどまだ口の中がいっぱいで飲み込めない。


「秋沢さん……ってそんなので納得するわけないじゃないですかっ!」

「ちぇっ……」


 だよな。それで納得する奴がいたら見てみたい。けど、そこまで騒ぐような事か? とも思う。これは歳をとったからか? 俺が学生の時は……ダメだ。参考になるような思い出が無い。ある訳がない。別にモテた訳じゃなかったしな……。付き合ったの柚だけだったし。

 ──ん、よし。やっと唐揚げ飲み込んだ。


「あ、こうたん飲み込んだ。きゃー」

「まだ言いますかっ! わ、私なんて逆に晃太さんのが──むぐっ!」

「ゆ、結? 今はご飯を食べよう。俺はもう腹が減ってしょうがないんだ! 結の作った美味い飯を食べたくて仕方がないんだ!」

「え? そうですか? そんなにですか? もう、しょうがないですねぇ〜♪ 秋沢さんもお姉ちゃんもたくさん食べてくださいね♪」


 言わせるかぁぁぁぁっ!! 何を言おうとしてたのかさっっっぱり分からないけど言わせてたまるかぁ!


「こうたんの彼女、ちょろい」


 言うな。


「あと、後でくわしく」


 忘れろ。

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