第90話 「えいえい」
結局四人で飯を食べることになったんだが、二人分で作っていたおかずが足りるわけもない。
次の日の弁当用に取っておいた分があるらしいが、それは時間が経ってもいいように味付けを変えてあるみたいで、急遽簡単なおかずを作る事になった。
あ、作ることになったとは言っても、作るのは結なんだけどな?
そしてその待ち時間のうちに柚はビールを取りに。秋沢は着替えるためにそれぞれ自分の部屋に一度戻って行った為、俺は結の手伝いをする為に台所に向かった。
「結、なんか手伝う事あるか?」
「えっと、そうですね〜。もう適当に残り物を炒めた物をお皿に移して終わりなんですよ。あ、そうそう! すぐにお皿に盛るので、そうしたらそこのボールに浸けてある、スライスした玉ねぎを水気絞って盛った肉野菜炒めの上にのせてもらっていいですか?」
「おっけー」
俺は言われた通りにボールに手を入れると、玉ねぎを掴んで握りしめて水分をだす。
その隣では結がフライパンから大皿に肉野菜炒めを盛り付けていた。が、その後すぐに姿が見えなくなる。
と、思ったら後ろからいきなり抱きつかれた。
「ん? どうした?」
「晃太さぁ〜ん? さっき秋沢さんの下着見てましたよね?」
「あれは結がスカートまくるからだろ?」
「ふふっ、冗談です。あれはちょっとやりすぎました。けど、その後はずっと私のに釘付けだったので許します」
「あ、いや……気づいてた?」
「もちろんですよ?」
なんてこった。女性は胸を見られてるのには気付くってのは聞いていたけど、まさかそっちもか。って当たり前か。
「ちなみに今は胸を押し付けてます」
「それはわかる」
「えいえい」
「こーら。今から二人戻ってくるんだぞ?」
「カギしめちゃいます?」
「やめなさい」
「はぁ〜い」
返事をしながら背中から離れたかと思うと、今度は俺とシンクの間。そして更に、輪になった俺の腕の中に入ってきた。俺の手にはまだ玉ねぎが握られているから動けない。
「動けない晃太さんみーつけたっ♪ ん〜」
何がそんなに楽しいのか、満面の笑みを浮かべながらそんな事を言うと、目を閉じて背伸びしながら顔を上に向けてきた。これはキスをねだる顔だな。
「……いつ来るかわからないから、少しだけだぞ?」
「んっ!」
これは多分うん、って言ってるんだろうな。
口閉じたままだから言えてないけど。
って考えてる暇ないか。
俺は顔を下げる。そして触れるか触れないかって時、顔のすぐ横に結の腕が伸びてくると同時に唇が押し付けられた。その時、
「戻って来たわよー! ご飯出来たー?」
「ご飯ご飯ー」
っ!?
「結、二人とも戻ってきたぞ」
「もうちょっとぉ……んん……」
玄関が閉まる音が聞こえる。そしてこっちに向かってくる足音。
「あんた達、私達がいない間に変なことしてないでしょうねー?」
「ねー?」
そしてキッチンへの戸が開かれた。
「おう、今ちょうど盛り付け終わったところだ」
「そう? じゃあ私達座ってるわよ?」
「わよ」
ギリギリのタイミングでオレと結は並んで立っている状態に戻る。
あっぶな。キスしてたのバレるとこだった。
てか、お前らなんか仲良いな。
「あ、そうそう結? お歳暮で油とか貰ったんだけどあんた使う?」
「……んぇ? ふぁい?」
あぁぁぁぁっ! 口元に指当てたままでそんな蕩けた返事なんかしたらっ!
「あんた達……」
「たちー」
ほら、バレた……。
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