第89話 そこに手を伸ばす者
結が電話を切ってすぐ。俺達が箸をもってさぁ食べるぞ! って時に柚は来た。
「やった〜! もう疲れてご飯作る気力無かったんだよね。そういえば結! 今日公開告白されたんだって!? ドラマみたいじゃない。まぁ、あんたの頭は晃太の事でいっぱいだからどこ吹く風だったんでしょうけど。あ、そういえば私も今日はやけに授業中に微笑ましい目で見られてたような? その事が関係してるのかしら? まぁいいわ。今日は何作ったの? って唐揚げじゃない! ビール持ってくれば良かった!」
部屋に入るなり怒涛の勢いで喋りまくる柚。
それに対して柚はニコニコしたまま柚に向き直った。
「あ、晃太さんは食べててくださいね? 温かいうちに食べてほしいですし」
「おう」
「お姉ちゃん。正座して?」
「え? え? 何? どうしたの?」
柚は戸惑いながらも結の圧に負けて正座する。
その正面で結も正座だ。どっちが姉だよ。
「それでは、尋問をはじめます。証人は晃太さんです」
「へ? ちょっと晃太!? これ何が始まるの!?」
「ノーゴメント」
「なんか混ざってる!?」
そこから始まるの結の柚への尋問。
最初は柚もなんとか苦しい言い訳をしていたが、途中から「はい……」しか言わなくなっていった。
「お姉ちゃんも晃太さんの事が好きなのはわかってるから、私から何か言うのは違うとは思ってるの。だけど、先生なんだから生徒の前ではちゃんとしないとだよ?」
「わ、わかってるわよ……。一応ちゃんと違うって言ったのよ? だけどお似合いって言われてつい……嬉しくなっちゃって?」
「もうっ……。そのせいでお姉ちゃんと晃太さんが付き合ってるみたいな噂が立ってるんだよ? これは久我君の早とちりもあるけど……」
そうなんだよな。久我が確信も持たずにあんな事を言わなけりゃこんな事にはならなかったんだよ。
まったく。困ったもんだ。
「それでお姉ちゃん、この噂どうするの?」
「勝手に消えないかしら?」
「いや、しばらくは騒ぐと思うぞ? ほら柚、俺たちだって女の教育実習生が来た時、当時独身だった担任とくっつけようとして騒いだじゃんか」
「あ、あぁ……そういえばそんな事もしたような……。しょうがないわね。後でそれとなく私の方から久我君にちゃんと訂正しておくわね。じゃないと、もしあなた達二人が付き合ってるのバレたら、私も巻き込まれて大変な事になりそうだもの」
「まぁ、そこはバレないように俺も気をつけるさ」
「私は大丈夫ですっ!」
「いや、結はもう少し自重しろ。今日だって式の最中ずっとこっち見てただろ?」
「だ。だって……スーツ姿の晃太さんがカッコよくて……」
「あ……うぅむ……それにしてもだなぁ……」
しかし結がストレートに気持ちを伝えてくるのには中々慣れない。未だに照れる。
「ねぇ、私なんで呼ばれたの? イチャイチャするなら私達が帰ってからにしてくれないかしら?」
「そうそう。ボクなんて今初めて喋った。あ、これおいし」
柚がげんなりとした目で俺と結を見てくる。そして俺のすぐ隣から聞こえてくる声。そこにいたのは秋沢。俺が食べようとしていた唐揚げに手を伸ばし、一個口に放り込んだ。
「つーかずっと気になってたけど、なんで秋沢までいるんだ?」
俺が聞くと、秋沢は口に入った唐揚げを飲み込んでから口を開いた。
「……? ボクは昨日部屋に帰ってきたばかり。実家で疲れた。で、天音先生にご飯奢って貰おうとして部屋までいったら、こうたんの部屋に行くっていうから着いてきた。仲間外れはいけない。あ、あけましておめでとうございます」
「おう、あけおめ。……って、仲間外れ言うなし……」
「秋沢さん、あけましておめでとうございます。おいしいですか?」
「うんとても。これは鶏むね肉の唐揚げとみた。ボクのむね肉も中々のモノだと思うけど? 食べる?」
そう言って例のごとく自分の胸を持ち上げる。
それはもういいって。思うけど? じゃねぇよ。食べないっての!
「秋沢さん? それはもも肉ですよ? ──あ、もも肉も中々のモノですね?」
結がそう言いながら未だ着替えていない秋沢のスカートを捲ってその太ももを指でつつく。白い何かが見えた。
「ん、天音先輩も中々のもも肉」
「いえいえ、秋沢さん程では」
「さすが歳上」
「ふふふ……」
「あはは……」
今度は秋沢が結が着ていたニットワンピを捲って太ももを掴む。水色の何かがガッツリ見えた。
そして二人は見つめ合っている。女こえぇ……。
それにしてもそろそろお互いに捲ってる手を離した方がいいのでは? ここに男いるんですけど?
「は、肌が若い……。指で押してもすぐに戻ってくるなんて……」
ほら、ここにいるお姉さんが震えてるからやめなさい。
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