第87話 お断りはキッパリと

 さて、冬休みってこともあり、久我とやらの真意もよくわからないまま新学期を迎えた。


 一応、休み中に結が和華ちゃんに連絡して久我の事を聞いてみたところ、冬休み前に一部の生徒達でアンケートをとったらしく、そのアンケートで久我は【二年で付き合いたい男子一位】になったらしい。ちなみに女子の一位は結とのこと。


「知ってた?」

「全然知りませんでした。私は晃太さん以外興味もありませんし」


 って真顔で言われた。照れる。

 で、和華ちゃんが言うには、久我の周囲の奴らが「お似合いじゃん!」「いけるいける!」「もう付き合っちゃえばいいのに」とかはやし立てていたのを聞いた事があるらしい。当の本人である久我は何も言ってなかったみたいだけどな。

 周りに言われてその気になっちゃったのか? って思いもしたけど、本人が何も言ってないのなら確信は持てない。やれやれ……。


 ただ、その話を聞いた後、「ねぇ和華ちゃん、久我君の周りでそんなありえない事言ってたのは誰なのかな? 教えて? ね?」って名前を聞き出していたのが少し怖かった。


 さて、どうなることやら……。



 で、今日は始業式。生徒達は式の後に普通に授業をやって、午前中で終わりとの事。俺は普通に一日中仕事だけどな。

 何故か今回は俺も教職員達と一緒に並んで立つらしく、いつもの作業服とは違うスーツ姿だ。頭だってタオルを巻かずに髪型もちゃんとしている。


 だからだろうか。なんかめっちゃ見られてる。誰に? 決まってんだろ。結にだ。おい、まじで見すぎだ。隣の奴とかもお前の視線につられてこっち見てんだろうが。朝だって「こ、晃太さんのスーツ姿っ! ちょっとネクタイ緩めてボタン外しながら迫ってきてくれませんか?」とか言ってたし。自重しろ自重。

 ──っと、式が始まったな。


 そこからは校長の挨拶やら、産休に入った教師の代わりの臨時教師の紹介と挨拶。それが済むと教師は体育館から出ていく。そして生徒だけになると、生徒会が壇上に上がって卒業式に向けての説明やらを話し始めた。俺はそれが終わった後に後片付けの指示をしろって柚と校長に言われた為、一人残って立ってた位置に椅子を置き、座ってそれを眺めていた。

 つか、久我の奴生徒会役員だったのか。壇上に上がってきたからビックリした。どうやら会計らしく、頭が痛くなりそうな数字をひたすら喋ると後ろに下がり、役員が揃って壇上から降りていく……と思ったら、久我だけが壇上に残った。


 おいおいおい……まさかだよな?


「えー、どうも。さっきも挨拶しましたけど、二年の久我 隼人です。今日はこの場を、みなさんの力を借りて成し遂げたい事がありまして、時間をいただきました。それでその成し遂げたい事なんですけど……天音 結さん!」


 久我が結の名前を呼んだ事で体育館内がどよめく。


「あいつ聖女にコクるのかよ!」

「ショックー! だけどお似合いだぜー!」

「これ、断れないんじゃねぇの!?」

「いけいけゴーゴー!」


 こんな感じで声を上げてる奴もいるけど、ごく一部からだ。多分アイツらが和華ちゃんが言ってた奴らかな。

 それにしても嘘だろ? それ、なんか昔テレビで見た事あるわ。 それにみんなの力を借りてってなんだ?

 ……あ。もしかしてあの変な自信の根拠ってこれか? 付き合いたい男子と女子のお互いに一位の二人。しかも周囲が持ち上げてる。更に大勢の前で断りずらい状況にしての告白。

 え? 馬鹿なのか? こいつ馬鹿なのか!?

 てか結はどんな反応してんだ──おおぅ……。

 まだこっち見てる。久我の呼びかけにも気づいてないっぽいな。


「あれ? えっと……天音 結さん?」


 しかし結は反応しない。

 隣にいる女子から指でつつかれ、さらに声をかけられてようやく気付いたようだ。

 そしてその目はまっすぐ壇上に向かった。


「はい?」


 どうやら状況がよく分かってなさそう。とりあえず呼ばれたから返事をしたって感じだな。


「天音結さん。以前想いを告げた時はもうそこで諦めようと思いました。けど無理でした。だからあれから勉強も頑張り、次の役員選挙にも出て、来年度の生徒会長へも立候補しようと思っています」

「…………」


 結は無言を貫く。


「そしてその時、隣には天音さんにいて欲しいんです。好きです。付き合ってください!」


 久我がそう言うと、


「よく言った!」

「いいぞー!」

「頑張ってー!」

「美男美女カップル成立だー!」


 といった声が上がった後、だんだん静かになっていき、生徒の視線が結に集まる。

 すると結はニッコリと微笑んだ。


「あ……。笑ってくれた……もしかして……」


 久我がホッと安心した様な顔になるが、その直後──


「嫌です無理ですごめんなさい」


 バッサリ切った。

 それはもう見事に。


「え、えっと……それは……」

「ごめんなさい」

「もしかして……もう彼氏が?」

「ごめんなさい」

「あ、はい。僕こそごめんなさい」

「はい」


 逆に謝らせちゃったよおい。

 すると久我は肩を落として壇上から降りていく。盛り上がっていた生徒達も、どうしていいのか分からずにキョロキョロしている。


 そして結はチラッと俺の方を向き、小さくニコッと笑うと、一瞬ピースサインを出してすぐに前を向いた。まぁ、すぐに周りの子達からいろいろ聞かれ始めたけど。


 まぁ、別に心配はしてなかったけど? 俺が最初で最後って言ってくれたし?

 ……くそっ。口元がニヤけるのが止められない。


 だから俺はとりあえず腕を組み、右手を顎に当てて何かを考えてるフリをしながら口元を隠すことにした。

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