第84話 いきなり恋敵?

 正月中は食って寝てを繰り返し、毎日のように家に来ては母さんから料理を教わる結の姿を見ながら過ごしているうちにすでに五日。

 お互い実家にいるってことで二人きりの時間が少なく、時々暴走しそうになって「晃太さん、私、声我慢しますからぁ……」なんて事を言ってくる結をなんとか諦めさせながらの日々だった。

 更には二人の両親公認の仲になった今、父さんが変な気を回して「どーれ母さんに彩那、今夜は晃太の事は唯ちゃんに任せてちょっと外に食べにでも行こうか?」なんて事を言うもんだからタチが悪い。そしてその言葉を聞いた瞬間の結の俺ロックオンが早い。

 まぁ、それは彩那の「え、やだ」で、父さんが膝から崩れ落ちて無くなったんだけどな。


 そして明けて六日。俺と柚は明日から仕事が始まる為、先にアパートに戻ることになった。結も一緒に来ようとしたみたいだけど、中学の時の友達と遊ぶ約束があったみたいで一日遅れで来るとのこと。で、今は結達の家に柚を迎えに来た所。柚はまだ準備が終わってないらしく、俺は外に出てきた結と話をしている。


「うぅぅ~~! 一緒に帰りたかったです」

「まぁ、一日だけじゃんか。その友達とは久しぶりに会うんだろ?」

「まぁそうですけどぉ? 晃太さんは嫉妬とかしないんですか? もしかしたら男の子かもしれませんよ?」

「え、なんで? だってその友達女だろ? 結がそんな事するとは思えないしな」

「っ! 今すっごいトキメキました。もう、ホントに晃太さんたら……」


 そんなやりとりをしていると、両手にいっぱいの紙袋を持った柚が家の中から出てきた。


「あんたら家の前で何イチャイチャしてんのよ。塩まくわよ」

「なんでだよ。つーかイチャイチャしてねぇし」

「……じ、自覚がないとでもいうの!? あんた昔はそんなキャラじゃなかったじゃない! 結……貴女一体何をしたのよ……」

「え? 内緒だよ?」


 なんでそんなビックリした顔してんだよ。ただ手を繋いだまま話してるだけじゃねぇか。それよりもだ。


「つーかお前、その荷物何なんだ?」


 俺は柚が持ってる紙袋を指さして聞く。


「何って……。これ全部お土産よ? 私のクラスの子達と部活の子達と先生達に。こっちのちょっと高いのは校長先生と副校長先生用ね。いろいろ大変なのよ……」

「やべ、俺買ってねぇ」

「あんたはいいんじゃない? クラス持ってる訳でもないし、職員室に来ることないじゃない。未だにあんたの顔知らない先生だっているくらいだし」

「そうか? まぁ、校長くらいには買っていくか。知らない仲じゃないし」

「あぁ、それはいいかもね。ってもう行くわよ。時間遅れちゃうじゃない。結またね。あ、晃太こっち半分持って」

「へいへい」


 俺はそう言って渡された紙袋を持つ。それを確認すると、柚はそのままスタスタと歩いて行ってしまった。


「じゃあ結、俺たち先に行くな。明日気をつけて来いよ? 仕事終わったら駅まで迎えに行くからさ」

「……はい。晃太さん?」

「ん?」


 ちゅっ……と軽くキスをされた。


「浮気……しないでくださいね?」

「するわけないって。じゃな」

「はい、気をつけてくださいね」


 そして俺は、手を振る結に見送られて柚の後ろを追いかけて行った。


 ◇◇◇


「あんた、ほんと変わったわね」


 電車に乗り、柚の隣に座るといきなりそんな事を言われる。


「自分じゃわかんないけどな」

「そう。もし、私も結みたいに出来てたら今頃どうなってたのかしらね」

「……さぁな。ただ、俺から言える事は、同じ事をしたとしても結は結。柚は柚だろ? どうなるかなんてわかんないさ」

「そだね。うん。ありがと」


 そこから少し沈黙が続き、それが終わる頃にはまたいつも通りのバカ話に戻って行った。


「んぁぁぁ〜! やっと着いた! って言う程の距離でもないけどね」

「まぁな? ただ、荷物が多い分疲れた」

「あらすいませんね。荷物持ちさせちゃって」

「駅前の焼き鳥屋の満腹セットで許してやろう」

「しょうがないわね」


 そんな会話をしながら駅から出て、店に向かおうとすると誰かが声を掛けてきた。


「あ、天音先生。こんにちは。そして、あけましておめでとうございます」

「あれ? 久我君じゃない。あけましておめでとう。何してたの?」

「今ちょっと母親に頼まれて買い物に来てたんですよ」

「偉いわね〜! 課題は進んでる?」

「まぁ……そこそこ?」

「久我君のそこそこはかなりだと先生思うんだけどな? 学期末のテストも凄かったし」


 柚とそんな会話をする男。話の内容的に教師と生徒って感じだな。てか、このさわやかイケメンどっかで見たことあるような? どこだっけ?


「あれはマグレですよ。そういえば妹さんは? 隣の人はもしかして彼氏ですか?」

「ち、違うわよ! ただの同郷の友人だからね!? 変な勘繰りはやめなさい! 妹はまだ実家にいるわよ」

「そうなんですか。お似合いだからてっきり彼氏かと思いましたよ」

「お似合いってそんな……えへへ……そんなぁ」


 おいニヤけるな。誤解される。


「そうだ。姉である先生には言っておかないとですね」

「え? 何を?」

「実は僕、先生の妹さんの天音 結さんとお付き合いすることになるかもしれませんよ?」

「……はぇ?」

「へ?」


 柚が気の抜けた声を出した後、一瞬俺の方を見る。そして思わず俺の口からもマヌケな声が漏れる。

 は? なに? 誰と誰が付き合うって?


 って、あーっ! 思い出した! このさわやかイケメン、前に結に告白して振られてた男子じゃねぇか!

 それがなんで結と付き合う話になってんだ!?

 結の彼氏は俺なんだけど!?

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