第81話 秘密兵器に希望を抱いて

「そういえば、結のお父さんは? 一緒に来たんだろ?」


 俺は朝食──とはいっても昨日の残りをつまみながら結に聞く。確か、家族みんなで来たって言ってたよな?


「お父さんは、私が晃太さんを起こしてる間に会社から電話がきて、それからすぐに急いで帰ったみたいです」

「そうなのか? なんだ。新年の挨拶出来なかったな」

「今度でいいんじゃないですか? 結婚の挨拶は」

「いや、話が飛びすぎだから。俺、って言ったよな?」


 ニコッ♪


 いや、ニコッ♪ じゃないでしょ。いきなりなんて事言い出すのこの子は。

 ほら、みんなびっくりしてんじゃん。っても父さんと日菜子さんと彩那しかいないけど。

 柚は俺の母さんにどこかに連れていかれた。

 父さんは未だに放心中。彩那はテンション上がって結に言い寄っている。


「結お姉ちゃんが彩那のホントのお姉ちゃんになるの!?」

「うん。そうなるね。彩那ちゃんよろしくね」

「やったぁぁ!!」


 おい、気が早いから。結はまだ高校生だぞ? これから何が起きるかわからないってのに。

 そんな中、日菜子さんだけはニコニコしている。

 これでもか! ってくらいにニコニコしている。

 え、なに? なんでそんなに!?


「晃太君?」

「は、はい?」

「うちのパパは多分逃げたのよ。娘の彼氏って目で晃太君を見るのが怖かったのね。電話が来たって言ってたけど、その時見えたスマホの画面に写ってたのはアラームの画面だったもの。計画性のある逃亡だったのね。まったく、後でお説教しないといけないじゃないの。ふふ……」

「は、はは……」


 こっわ……。俺としては助かったけど。


「それとね? ちょっと耳貸してくれる?」


 そんな事を言いながら手招きをする。俺はそれに応えて少し体を前に出すと、日菜子さんがボソッと言う。


「最初は女の子? それとも男の子? どっちがいいの?」

「え? ちょっと何言ってんすか?」

「ウチは女の子ばかりだったから初孫は男の子がいいわねぇ~」

「……俺の話聞いてます?」

「もちろん聞いてるわよ? 済ませたんでしょ?」

「んなっ!?」


 言い方っ! てか、なんで知ってんの!?


「女わね……わかるのよ。まぁ、あの子の場合はニコニコしながらお腹撫でてたからバレバレね」

「……さいですか」


 結よ。少しは隠せ。頼むから。あ……ちょっと胃がキリキリしてきた……。これ以上変に追求されるのはマジでキツいんですけど!?

 って所で助けが入った。俺の母さんだ。その後ろからは、小包を両手で抱えた柚もいた。なぜかその表情は自信に満ち溢れていた。


「ほら、みんな何してるの? 晃太も早く食べちゃいなさい。初詣行くわよ」

「ん、了解。もう食べ終わったから、残りにラップかけて冷蔵庫入れとくわ。ところで……柚、それなんだ?」

「ふふふふふ……。それは内緒よ。有華さんから借りたこの秘密兵器があれば私もきっと! 晃太、見てなさいっ! 後悔させてあげるわっ!」


 秘密兵器って……。一体何を借りたんだよ。


「あれ? 柚ちゃん? それって昔、有華が俺と付き合ってた頃に使ってた豊きょ『?』……いや、何でもございません」

「うふ。ほら、あなたもいつまでも寝巻きのままじゃなくて早く着替えないとダメよ? はい、こっち来なさい?」

「あ、いや、ごめんって! 痛い痛い! 髪と小指引っ張らないで!」


 父さん、余計な事言うから……。

 それにその秘密兵器ってもしかして──いや、もはや何も言うまい。「これで私も来年には帯に胸がのる!」とか言ってワクワクしてるし。


「晃太さん? 私のは天然物ですからね?」


 母娘揃って言い方っ!!

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