第80話 マーキング
今年最初のキスは、お互いに軽く唇を触れさせるだけのもので終わった。
理由は簡単。結が化粧してるからだ。
口紅もしっかりと塗ってるのでいつもみたいにすると、落ちてしまうらしい。化粧品は家に置いてきてしまった為に、落ちても塗り直す事ができず残念がっていた。
「さ、起きてください。お母さんが晃太さんにもお年玉用意してるみたいですよ?」
「いやいや、俺はもうお年玉貰う歳じゃないぞ? むしろあげる方だし」
「まぁ、いいじゃないですか。貰えるものは貰っておきましょうよ」
「マジかよ……。あ、結にもあげないとな」
俺は枕元に置いていた革の長財布を手に取った。ちなみにこの財布が結からのクリスマスプレゼントだ。貰ったその日に前の財布から全部移し替えて使っている。革だから早く馴染ませないと固いからな。
「私はいいですよ? だって、貰っても結局二人のお金になりますし」
「ん、おぉ? そ、そうか?」
「あ、今の会話って、なんだか夫婦みたいですね?」
「俺も思ったけど、口に出すなよ……。恥ずかしいだろうが」
「ふふ、同じ事考えてたんですね♪」
「だな。さて、さすがにそろそろ起きるか。結は先に行っててくれ。俺は顔洗ってから行くから」
そう言うと結は頷いて部屋を出ていった。俺は布団を畳んで端に寄せてから洗面台に向かうと、途中で母さんに会った。
「あ、母さんおはようさん。後、あけおめ~」
「おはよ。そしてあけましておめでとう、晃太。……ってあんた今起きたばかりよね? まだリビングにら行ってない?」
「ん? 行ってないけど?」
「なら良かったわ。ちゃんと顔洗ってから行きなさいよ? 唇に結ちゃんの口紅ついてるから」
──っ!? 言われてすぐに手の甲で軽く拭うと、確かに口紅の色が付いた。あっぶな……。
すると母さんが何か考え込むような顔をすると、俺を見て呟いた。
「結ちゃん、中々やるわね……」
「どゆこと?」
「なんでもないわよ? 良かったじゃないの。愛されてるわね」
「なんだそりゃ」
よくわからない事を言いながらリビングに入って行く母さんを見た後、俺は顔を洗ってリビングに入った。
テーブルには結、日菜子さん、柚の順に座り、その向かいに肩を落とした父さんと彩那が座っている。
振袖は結だけじゃないみたいで、日菜子さんは普段着だけど、柚も振袖を着ていた。ちなみに彩那はまたしてもメイド服。しかも昨日とは違うデザインだ。
「日菜子さん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。あ、柚もあけおめ。父さんはどんまい」
「はい、明けましておめでとうね。今年もって言うか、これからずっと宜しくね? お義母さんって呼んでもいいのよ?」
「あ、ははは……」
さすがにそれは気が早いって。
「晃太あけおめ~。ど、どう? わたしも振袖着て見たんだけど?」
そんな事を聞いてくる柚に対して、俺が返事をしようとした瞬間、彩那から柚への称賛(?)の声が飛んだ。
「柚ちゃん超似合うよ! ねっ? おにぃもそう思うでしょ? 柚ちゃんの体って、凹凸が少ないから綺麗に着物のラインが出て凄く素敵だと思うの! この中じゃ一番和装とか似合うよねっ! 彩那とか結ちゃんだとやっぱり形崩れちゃうもんね……。彩那、また大きくなったし……」
「………………」
彩那お前……。俺になんていうキラーパス渡してくれてんだよ。これなんて答えるのが正解なんだ?
とりあえず似合うって言っておいた方がいいのだろうか? 結に助けを求める視線を向けるも、苦笑いだ。
「えっと……似合うぞ?」
「フフフ……。アリガト……。ワタシウレシイ」
あ、ダメだ。ハイライト消えてるわ。
そこで日菜子さんが更にトドメをさした。
「あら? そういえば結?」
「え、どうしたの? お母さん」
「あなた、口紅少し落ちてるわね。晃太君を起こしに行ってから」
「え、あ、その……あぅ」
「………かはっ!」
「あぁっ! 柚ちゃんが白目! お父さんみたいになっちゃってる!?」
なんだこのカオス。
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