第77話 【結】~起きたまま迎える朝~
『チキンつくりましたよ~!』
『飾り付けしてみました♪ クリスマスツリーもありますよ♪』
『アロマキャンドル買ってみました!』
『ド、ドラッグストア行って来ました……』
以上が、仕事中に結から来たメッセだ。
はしゃいでるのが手に取る様にわかる内容ばっかり。ドラッグストアってのが少し気になるけど。シャンプーでも無くなったか?
まぁいいか。俺は鞄を肩にかけ、倉庫の鍵を閉めると校門を抜けた。
買い物は結に任せてあるから、俺は真っ直ぐ帰るだけ。あ、でも明日は休みだから少し飲むか?
ってなわけでいつものコンビニに寄って酒を数本ゲット。
そのまま真っ直ぐ自分の部屋の前に来ると、チャイムを押した。何故かというと、結にそうしてくれと頼まれたから。鍵も持たせて貰えなかった。
すると、扉の向こうから声が聞こえた。
「帰ったぞ~。開けてくれ~」
「はいはい、今開けますよ~♪」
カチャって音がするとすぐに扉が開き、俺が中に入ると──
「メリ~クリスマ~ス! イブッ!」
「おわっ!」
朝と同じサンタコスをしたままの結がクラッカーを鳴らしてきた。
「これ、ずっとやってみたかったんです!」
「あーびっくりした……。クラッカーとか中学以来だわ。懐かしいな……。てか大丈夫なのか? 秋沢とかにも聞こえてんじゃないのか?」
「その辺は大丈夫です! 秋沢さんは家族と過ごさなきゃならないらしくて、今朝ご家族のお迎えが来てました! お姉ちゃんも今日はお母さんに呼ばれてるのでアパートに帰ってこないんです!」
「そ、そうなのか……」
って事は、久しぶりにアパートに二人きりなんだな。
「だから少しくらい大きな音が出ても大丈夫ですよ?」
「なのかぁ。なら何かブルーレイでも借りてくれば良かったな」
「……ですねっ!」
ん? なんだ今の間は。
何か借りたい映画でもあったか? 言ってくれたら帰りに借りてきたのに。
その後、着替えるとすぐに夕飯になった。小さいテーブルの上には手作りのチキン、サラダ、サンドイッチにピラフ等で埋まっていた。
俺は食べる前に一杯飲もうとすると、何故か結に止められた。
「だ、ダメです! 飲んだら晃太さんすぐ寝ちゃうじゃないですかぁ! そうなったら私また自分で……あ、いえ、なんでもないです。けど、まだ飲んじゃだめです! ジュースなら色々買ってあるのでそれ飲みませんか?」
「う……わかったよ。じゃあ寝る前に飲むか……」
まぁ、思いつきで買っただけだしな。ジュースも好きだからそっちにしよう。にしても、本当に結の作る飯は美味いな!
──食事も終わって膨れた腹が落ち着いた頃、結がいつの間にか風呂の準備もしていてくれたらしく、勧められたから入る事にした。タオルの他に着替えも準備されていて、正にいたせりつくせりって感じ。
もしかして乱入してくるのか? って思ったけどそんな事もなく、俺が風呂から上がった後に結が脱衣場に入っていった。
朝の暴走が嘘みたいだな。クリスマスって事でめっちゃグイグイ来るかと思ったんだけど、考え過ぎだったか。
そして結が置いたアロマキャンドルを眺めながら、いつもみたいに部屋でボケーッとしてると、浴室のドアが開く音がした。上がってきたか。
俺が後ろを振り向くと、初めて見る部屋着を着た結が立っている。色は薄いピンク。丈が膝下までのワンピースタイプでモコモコしていて暖かそう。前面は上から下まで大きめのボタンで留まっていた。
「どうですか? コレ。今日買ってきたんです」
「ん、凄く可愛いぞ」
「へへ、ありがとうございます」
少し照れながらそう言うと、俺の隣に座って体を寄せてきた。そして俺の近くにあるテレビのリモコンを手に取ると電源を切った。
途端に部屋が静かになる。
「晃太さん……ギュッてして?」
「ん、おいで」
手を広げると結はそのまま俺の胸に飛び込んできた。そして俺の背中に手を回してしっかりと掴んでくると、胸元で頭をグリグリしてくる。
「んふぅ~晃太さんの匂い好きぃ~」
「自分じゃわかんないんだけどなぁ」
「私だけ知ってればいいんです。ん……」
今度は顔を上げて目をつぶり、少しだけ唇を突き出してくる。これはキスのおねだりだ。
付き合ってからたまにしてくる。俺もそれに答えない理由はないから顔を近付けた。
「んっ……んむぅ……」
それからどれだけキスを続けたのかわからないけど、いきなり結の唇が離れた。瞳は蕩け、顔はうっすら赤く上気していた。
「結?」
「……晃太さん。そろそろ我慢やめませんか?」
「!?」
「私の事を気遣ってくれてるのは嬉しいんです。だけど……私は晃太さんとちゃんと結ばれたいんです。好きだから。ずっとずっと長い間好きだった人とこうして恋人になれたんです。だから……」
「結……」
結は俺から少し体を離すと、ワンピースのボタンを外していく。
「ちょっ! 待った!ほら、アレが無いだろ?」
「あります。今日買ってきました」
……ドラッグストアに行ったってそれかぁぁあ!!
って話してる間に、いつの間にかボタンはお腹の辺りまで外されていた。僅かにはだけた隙間から白い肌と水色の下着が見える。
……ふぅ。流石にヘタレるのもここまでだな。これからは何があっても責任を取る覚悟を決めよう。告白をする時の覚悟とはまた違う、それ以上の覚悟を。
「わかった。電気消すぞ」
「……っ!」
隣のベッドに置いていた照明のリモコンを手に取ってスイッチを押した。
部屋を照らすのはアロマキャンドルの光だけ。
そして俺達は──
「好き……大好きなの……」
眠らないまま朝を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます