第78話 私をプレゼント

「朝に……なっちゃいましたね……」


 結が俺の隣でそんなことを言う。

 そう言われて窓の方を見ると、カーテンの隙間から少し光が見えた。

 ……マジか。朝まで? 道理で体が動かない訳だ。

 もう俺の体力はレッドゲージ。寝たい。とにかく寝たい。


「晃太さん寝ますか? もう目がトロンとしてますけど」

「あ~うん。もう眠気が限界だわ」

「もう外が明るくなってきましたもんね。初日の出も出てますし……なんちゃって!」

「おい……」


 お前どこ見て初日の出って言ってんだよ。やめろっ! それに今日はクリスマスで、元旦は来週だっての。

 あ、そういえば──


「なぁ、結は正月はどうするんだ? いつ頃あっちの家に帰るんだ?」

「そうですね……。お姉ちゃんの補習の監督が二十九日まであるので、その次の日に帰ろうかって話をしてました。晃太さんは?」

「俺は……三十日まで仕事……だか……ら、三十一日……か……な……」

「そうですか。一緒に帰れると思ったのになぁ~」


 結はそんな事を言いながら密着している体を更に擦り寄せてくる。

 だけど俺はその後の返事はすることが出来ずに、瞼が閉じていき、やがて意識は薄れていった。


 その後、目が覚める……というか覚めた時はすでに昼を過ぎていた。

 俺がどうやって目覚めたのかは言えない。けど一言だけ。


 どこでそんな知識覚えてきたんだよぉぉぉ!?


「ふぁい?(はい?)」



 ━━そして少し遅い昼食を食べた後は、年末に部屋を空ける為の部屋の片付け、洗濯、掃除を済ませるとあっという間に夜になった。


 いつの間に作っていたのか、昨日とはまた別の夕飯のメニューに、昨日食べなかったケーキも出てきた。

 俺の好きなチョコレートケーキ。しかもちゃんと箱に入って赤いリボンで結んであった。


「おっ! 俺の好きなやつじゃん! しかも甘さ控えめのやつ!」

「はい、晃太さん好きですもんね。だから頑張りました!」

「え? これ手作りなの?」

「もちろんです。あ、でも食べ過ぎ注意ですよ?」

「分かってるって。つーか飯が美味すぎて腹一杯だからそんなに入らないし」

「凄い勢いで食べてましたもんね。私は嬉しいですけど♪ それに私の事も……」

「ごふぁっ! お、お前……食事中になんつーことを……」

「一生の思い出ですから……」


 むしろ逆だったような気がしないでもないんだが……。

 そして夜。


「今日はお昼まで寝たから中々眠くなりませんね」

「ん? ああ、確かにそうかもな」

「そういえば、クリスマスプレゼントなんですけど、明日でもいいですか? ホントは昨日届く予定だったんですけど、発送元の手違いで明日になるみたいなんです」

「いいよいいよ。気にすんなって」


 座ってる俺の背中に寄りかかりながら、そんな事を言う結。

 さて、そろそろ渡すか。どんなシチュエーションで渡すかを色々考えたけど、結局思いつかなかった上に、結が寝てる間に──も、無理だったしな。

 俺はベッド脇の引き出しから小さい箱を取り出すと結に渡す。


「結、これ。俺からのプレゼント」

「わぁ! ありがとうございます! 開けても?」

「どうぞ。 まぁ、ありきたりで定番だけどな」


 俺が用意したのは安物のペアリング。

 それなのに結は──


「うぅ……凄い……嬉しいです。晃太さんからの初めてプレゼント……」

「喜んでくれたなら良かったよ」

「見て下さい。ピッタリです」


 そう言いながらリングを付けた右手の薬指を見せてくる。

 俺も、結が箱を開けてるうちにこっそり付けていた右手をだす。


「ほら、俺と一緒だ」

「ペ、ペアリングだったんですか!?」

「ん、まぁな……」

「こ、晃太さんってこういうの恥ずかしがるかと思ってたのに……」

「いやぁ……ほら、恋人になったんだから、それなりには……な?」


 すると結は返事を返さず俺をじっと見つめ、無言でゆっくりと俺の目の前に来ると、俺の頬に手を回してきた。


「晃太さん。昨日の今日なので我慢しようとしたんですけどもう無理です。こんなプレゼント貰ったらもう無理です。絶対無理です」

「は? え? ちょっと!?」

「昔、晃太さんの部屋で見た本の【私をプレゼント】をやる日がくるなんて……ちょっと待っててください」

「いや、待つってなんだ!? つーか俺の本って!?」


 自分の部屋に行って戻ってきた結の頭には、ケーキの箱を結んでいた赤いリボンが付いていた。


「ゆ、結さん?」

「晃太さん……私のリボンをほどいて?」



 あ……はい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る