第61話 音に隠れた涙
電話が切れた後、俺はそっとスマホをテーブルに置いて近くの鞄の中から今日貰ってきた薬を取り出す。
痛み止めと胃薬の合計二錠。粉薬じゃなくて良かった。あれ苦手なんだよな……。
薬を手のひらに乗せて一気に水で流し込む。
……ふぅ。
さて、さっきからまったく口を開かない柚が気になるけど、どうしたもんかね?
時計を見るとまだ夜七時。外はすでに真っ暗だけど。とりあえず食べた食器を片付けるか。
そう思ってゆっくりと立ち上がろうとすると、後ろから肩に手を置かれた。
「座ってて。私が片付けるから」
「いいのか?」
「うん」
柚はそう言うとおぼんをもって立ち上がると数歩進んですぐに立ち止まった。そして俺に背中を向けたままこう言ってくる。
「ねぇ晃汰。あのさ、言いたくないならいいんだけどさ。さっき結が言ってた[大事な話]って……何?」
「っ! あ、えっとな……」
これどうしよう。昔から知ってる奴に言うのはさすがに恥ずかしいな。いやでも……
「やっぱり……言えない?」
「そんな事はないさ。ただ……結の気持ちにちゃんと応えようと思ってな」
「そう……なんだ。じゃあ私コレ洗ってくるね。あ、今テレビでやってるの私も好きな歌番組だから音上げて貰ってもいい? 洗いながら聞きたいからさ」
「え? そっちまで聞こえるようにか? 結構な音量になるぞ?」
「大丈夫でしょ。他に誰も住んでないんだし。頼んだわよ」
柚が一度もこっちを振り向くことなくカーテンの向こうに消えていった後、言われた通りに音量を上げる。近くにいる俺にはうるさく感じるけど、色々やって貰ってるから文句は言えないしな。
柚がキッチンに行ってからは、テレビからは盛り上がる曲やダンス曲が流れ、今度はイマドキのラブソングが流れ始める。ちょうどその時トイレに行きたくなった俺はゆっくりと立ち上がって用を足し、ついでに飲み物を取りに行こうと思い仕切りのカーテンを開けて隣の部屋に行く。
そして開きっぱなしのキッチンの戸から顔を出した。そこには──
「ふっぐ……んぐ……うあ゛ぁぁ……晃汰ぁぁぁ……んふぅぅぅ……」
泣きながら洗い物をする柚の姿があった。
それを見た俺は、そのまま部屋に戻ると元の位置に座ってスマホを手に取る。
手に取ったはいいけど、画面は真っ暗のまんま。俺の脳裏にはさっきの柚の姿がずっと消えないままだ。
さすがにここで、 「ラブソングで泣いたのか?」なんて事は思わない。
俺がこっちにも来てからの柚の態度、言動、表情。そしてさっきの涙。
やっとわかった。柚が俺にハッキリと好意を持ってた事が。けど……
「気づくの……遅くてごめん。けど俺は…」
それだけ小さく呟くと、大音量で流れる歌声に紛れて聞こえてきた嗚咽に……唇を噛んだ。
━━いつも読んでくれてありがとうございます。
面白いよ! もっと読みたいよ!って思っていただけましたら幸いです。
ブクマ、コメント付き⭐レビュー、☆評価、応援、感想など貰えると執筆の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます