第60話 「だけ」
俺は結からの質問に答える。
「そうだ。ちょうど今柚が来ててな。飯の準備を助けてもらってるんだ」
「あっ!」
そう言ったところで柚が酷く焦ったような声をだした。妙にソワソワしているのが気になる。
「なんだよ」
「えと……なんでも……ない……」
柚はそれだけ言うと、俺の目の前のテーブルに持ってきた夕飯のタッパーを置いてそのままベットに腰を下ろし、そのまま膝を抱えた。
『晃汰さんちょっといいですか?』
一体どうしたってんだ? なんでいきなりそんなテンション下がる? う~む……。
『晃汰さん?』
「あぁ悪い。それで、柚がいるけどそれがどうかしたのか?」
『晃汰さん、スピーカーにしてもらっても良いですか?』
俺からの質問には答えずにそんな事を言われる。断る理由も無いからそのままスピーカーのマークをタップした。おそらく姉妹で話したい事でもあるんだろう。
『おねえちゃん? そこにいるんでしょ?』
スピーカーから聞こえる結の声に柚の肩がビクッと反応する。それを見ながら俺は箸を手に取り、茶碗を持った。
いただきます。
「ゆ、結……。うん、いる」
『……そっか! 良かったぁ!』
「……えっ?」
『晃汰さんぎっくり腰で大変だから、私が修学旅行に行ってる間だけでいいから助けてあげて欲しいの。いいでしょ? 今日もその為に来たんだよね?』
「え……あ、うん……」
『ありがとう。おねえちゃん。気温下がってきたし、気をつけて帰ってね』
「あ……。そう……だね。そうするね。……えっと、そ、そっちはどう? 楽しい? はしゃぎ過ぎないようにね?」
『わかってるよー。そういえばさっき温泉でね……』
その後しばらく姉妹の会話が続いた。
昔からこの二人は仲良いなぁ。
つーかさ、スピーカーになってんの忘れてないか? 温泉の中の話やら誰々の下着が可愛いとか処理が……とかさ、そんな話俺聞いちゃって大丈夫なの?
めっちゃ気まずいんだけど。一応聞いてないフリはしてるけどさ。
……あっ、この角煮うんまっ!
『あっ、そろそろみんな戻って来るみたいだからまたね』
「そう? 夜更かししないで寝るのよ?」
おっ、どうやら話は終わったっぽいかな?
ちょうど俺もごちそうさまだ。
最初はなんか変な感じしたけど、杞憂だったかな?
『晃汰さん、私そろそろ戻りますね。絶対無理しないでくださいよ?』
「わかったよ。まぁ、何日かはゆっくり休むさ」
『そうしてくださいね。後……』
「んー? なんだ?」
そう返した後、一呼吸置いて結はこう言った。
『私が帰ってから伝えたいって言ってた大事な話、楽しみにしてますからね♪』
「ちょっ! おまっ!」
柚も聞いてるってのになんつーことを言うんだ!?
思わず隣を見ると、目を見開いて唇を噛んだ柚の姿。
『ふふっ、それじゃあおやすみなさーい』
「お、おぅ」
そうして電話は切れた。
━━いつも読んでくれてありがとうございます。
面白いよ! もっと読みたいよ!って思っていただけましたら幸いです。
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