第59話 「今の……おねえちゃん?」

 玄関での事故(?)の後、俺はそのまま四つん這いで座椅子に向かい、柚はそんな俺の姿を見て爆笑しながら俺のベットに腰を下ろした。


「あははははっ! ひぃー! ちょっと! 笑わせないでよね!」

「おい、笑いすぎだコラ」

「ごめんってば。腰、ダメそうだね」

「あぁ、予想以上にキツいわ」

「そっか。えっと……んーと……」


 やっと笑うのが収まったかと思えば、今度は部屋をキョロキョロと見渡して落ち着きが無い上に、俺と目を合わせようとしない。


「そんな部屋中見てみてもなんもないぞ。てか何の用で来たんだ?」

「あのね、えっとさ、お風呂はどうしたの? その体じゃ大変でしょ? えと……あのさっ! 良かったら私が洗ってあげてもいいんだけどっ!?」


 いきなり普段より大きな声量でそんな事を言ってくる。しかも耳元で。

 ちょっとキーンってなった。


「いやいや声でけぇよ。そんな声張り上げなくても聞こえてるって。つーか風呂はもう済ましたぞ。後は飯食って薬飲むだけだな。あ! 悪いんだけどさ、飯の準備手伝ってもらえたら助かるんだけどいいか?」

「あ、そうなんだ……。せっかく水着持ってきたのに……」

「なんだそりゃ。お前までそういう事言うのかよ。んで飯なんだけど、冷蔵庫に……柚?」

「……お前? ねえ、ってどゆこと? まさか ……結と一緒に入ったの!? 」


 あ、やべ。


「違う違う! 一緒に入ったんじゃないぞ! 俺が入ってる時に乱入してきたんだ! それに結はちゃんと水着着てたし!」

「同じよぉぉ! 結果的には一緒に入ってるじゃないっ! ちょっと、変な事してないでしょうね!?」

「シ、シテナイヨ?」


 うん、してない。あれは事故だ。

 ……柔らかかったなぁ。


「ちょっと晃汰?」

「!?」


 ってうわっ! 顔近っ! いきなり目の前にくるなよ。びっくりするわ!


「なんだよ。てかホントになんもねーから!」

「そう……ならいいけど~。あの子の大きいからどうせ胸ばっかり見てたんでしょ? サイテー。小さくてすいませんねー! ふぅ、それでご飯だっけ? 冷蔵庫にあるの?」

「あぁ。日付ごとに書いてあるからわかると思う」

「すごいわね。いたせり尽くせりじゃないの。まったく……。持ってくるからそこで待ってなさい」

「へーい」


 そのまま結の部屋に向かう柚を見る。

 なんだ? 今日はやたらと感情がコロコロ変わるなアイツ。


 ~~♪


 ん? 電話?

 スマホの画面を見ると、そこには結からの着信を示す文字があった。


「はい、もしも……」

『晃汰さんっ! 何があったんですか!? 大丈夫なんですか!?』


 めっちゃ食い気味に来たな……。


「いやちょっと待て。いきなりなんだ!? てか周りに人は? 大丈夫なのか? 」

『大丈夫です! 今はみんなお風呂行っててここには和華ちゃんだけですから。ってそうじゃなくて、秋沢さんからメッセが来たんです! 晃汰さんが怪我してたって!』


 あーそうか。そこ繋がってるんだったなぁ。てか、何気に連絡取り合ってるのね。


「あー、今日ちょっと仕事中にぎっくり腰やってな。別に大きな怪我じゃないからそんな心配しなくていいぞ」

『そうですか……ってぎっくり腰も大変じゃないですか! お風呂とかは大丈夫ですか?』

「あぁ、風呂はなんとか。飯は今からだな」

『絶対無理しないでくださいね?』

「あぁ、わかってるよ。そんな心配しなくていいから、修学旅行楽しんで来いよ?」

『うぅ~今すぐにでも帰りたいぃぃ~』

「おいおい……」


 とその時、ちょうど柚が夕飯が入ったたっぱを持って戻ってきた。


「晃汰ー。ご飯これでよかったのー? って電話中?」

「えーっと日付は……これでいいぞ。サンキューな。あぁ、ちょうど結から電話だ」

「……えっ?」


 えってなんだ? そりゃ電話くらいはするだろ。そう思って柚の顔を見ると、何故かだんだん表情がなくなっていく。どうした?

 気になって声を掛けようとすると、今度はスマホからも声がした。


『……晃汰さん。今の……おねえちゃん?』

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