第51話 「……じっくり見ないでくださいね?」

 何か文句がありそうな結を見送ってから部屋に戻る。ほら、いつも俺ばっかりがタジタジしてるからたまにはね?

 さて、とりあえずは朝飯かな。俺はまっすぐ冷蔵庫に向かうとその扉を開けた。

 するとそこには──


「おわっ……なんだこりゃ。すげぇな。これ全然オカズなのか? 上から下まで棚にタッパーがイッパーい……うん、一人でボケてもつまらんな」


 まぁあれだ。今言った通りにすごい数のオカズが入ってた。結のいない三泊四日分。

 最初の二日分は冷蔵庫だが、残り二日分は冷凍庫に入ってるみたいだな。俺は米を炊くだけで良いとは言ってたけど、まさかここまでとは……。いつの間に作ったんだ? さっぱりわからん。

 とりあえず今日の日付で【朝】ってメモが貼られたタッパーを出すと蓋を開ける。中身は鯖の塩焼きだった。それをレンジに入れて温めるとインスタントの味噌汁を準備して電気ケトルのスイッチを入れてご飯をよそう。

 う~ん楽だ。なんだかダメになりそうな気がしてくる。これはどうしたものか……。


 そんな事を考えてるとレンジから温め終了のブザーが鳴り、その少し後になってケトルのお湯も沸いた。全部おぼんに乗せると自室に向かいテーブルにのせる。さて、飯だ。


「いただきます」


 うん、うまい。鯖が美味~い! ちょうどいい塩っけでご飯が進む進む。おかわりもしてしまった。食べ終わった後に使った食器はすぐに洗う。これは何回も言われた。「洗い物は溜めないでください」と。それはもう真剣な顔で何回も。何かあるのか? 聞こうとしたけど、それを許さない空気だったからやめたんだが……。


 その後、茶碗も洗って部屋に戻ってくるとスマホの画面に[新着メッセージ有り]の文字。すぐに開くと結からだった。内容は、


〖すいません。浴室に洗濯物干しっぱなしなの忘れてました。あの……干してあるの下着とかなんですけど、洗濯バサミから外して脱衣場にあるカゴに入れて置いて貰ってもいいですか? 恥ずかしいけど、干しっぱなしだと生地が悪くなっちゃうので、良かったらお願いします。えっと、あんまりじっくり見ないで下さいね?〗


 ……まーじか。部屋にいなくても俺を翻弄するのか。しかもじっくり見るなって……フリか? フリなのか!? いや、見ないけどさ!

 はぁ、頼まれたからにはやりますか……。


 さぁ、というわけでやって来ました。今俺は結の部屋の浴室の前。手には、言われた通りに脱衣場にあったカゴを持っている。いざ行かん浴室へ!


 そこはさながら花畑みたいだった。

 一つ手に取り、これはっ……って違う! まるで変態みたいじゃねーか!

 俺は頭を振ると一つ一つ丁寧に、洗濯バサミから色とりどりの布を外してはカゴに入れていく。

 ほ~ん、こんな色のも持ってたのね……。

 その時、最後に取ったブラを外した時にちょうどタグが見えてしまう。E……か。すげぇな。


 そして全てをカゴに入れると、なんとなくこの下着達が視界に入るのが気まずくなってきた為、上からバスタオルをかけておいた。これでヨシ。


 朝から妙に体力を奪われたように感じながら部屋に戻り、スマホを手にすると結にメッセを送る。


〖取り込んでおいたぞ。一応上からバスタオルかけてある〗


 これでいいか……ピコンッ。んをっ! 返信早いな。どれどれ……


〖は、早いですね。ありがとうございます。あーはずかしっ! まじまじと見てませんよね?〗

〖見てないっ!〗

〖なーんだ笑〗

〖いやいやいや、あんまり見ないでって言ったの結だよな!?〗

〖そうでした♪ そろそろ出勤ですよね? 気をつけてくださいね〗

〖わかった。行ってくる〗

〖行ってらっしゃい♪〗

〖うい〗


 それだけ返信すると俺はスマホを置き、両手で顔を覆った。


「んあぁぁ! なんだこのやりとり! まるで恋人じゃねぇか! んがぁぁぁ!」


 とまぁ、そんな感じで一通り悶えた後、俺は玄関を出た。………はぁ。







 面白い!続きが気になる!って感じて頂けましたら、⭐で評価、応援等よろしくおねがいします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る