第50話 「もう、妹としては見てない」

 ~~♪ ピッ


 アラームを止めて時間を見る。五時? はやいな……ってそうだ! 今日は結を見送る為にいつもより早い時間に目覚ましをセットしておいたんだった。


 てなわけで、いまだ開ききらない目をこすりながら体を起こす。

 布団から出ると部屋はまだ薄暗く、少し肌寒く感じた。そろそろ長袖の出番かな? おーさむさむ……。


 隣の部屋の方を見ると、カーテンの下から明かりが見えると同時にパタパタとスリッパで歩き回る音が聞こえたから、結は俺よりも早く起きてたんだろう。準備は昨日一昨日で終わったって言ってたから、今は最終確認か?

 楽しみにしてたもんなぁ。俺もそうだったからよくわかる。


 そんな音を聞きながら俺は着替えを済ませて隣に声を


「結、おはよ。カーテン開けて大丈夫か?」

「晃太さんおはようございます。いいですよー。今日は起きるの早いですね?」


 返事を聞いてからカーテンを開けると、制服姿で修学旅行の為に買ったトランクを横に置いて化粧をしているところだった。……何気に結が化粧してるところ初めて見るな。


「ん、結を見送ろうと思ってな。少し早めに目覚ましかけといたんだ。結は何時に起きてたんだ? 最終チェックは終わったのか?」

「………」


 返事がない。そのかわり下からジロリと俺を睨んできた。


「な、なんだ?」

「……寝てませんよぅ!」

「へっ?」

「あれからずっと寝てませんっ! 晃太さんにあんなこと言われて寝れるわけないじゃないですかぁ。布団に潜ってもそればっかり頭の中でグルグル~グルグル~ってなっちゃって寝れませんでしたっ! だから今化粧で誤魔化してるんです。もう、バカァ……アホゥ……(でも好きぃ……)」

「そ、そうか……なんかすまん」

「別にいいですけどぉ……その変わり帰ってきたらしっかりじっくり聞きますから」

「あ~うん」


 うん、ごめん。そっか、化粧はその為だったのね。納得。後、最後になんか言った? 口が動いてるのは見えたけど、マジで聞こえなかったんだが……。


「あっ! そろそろ行かないと。和華ちゃんと待ち合わせしてるんです。駅に一緒に行こって」

「もうそんな時間か。気を付けて行くんだぞ? 」


 どうやら学校に集合ではなく、駅に集合するらしい。これは学校によって違うのかな? 俺が通ってたとこは学校に集合でそこからバスで出発だった。結達は最初から電車に乗るからなんだろう。


「はい、ご飯はちゃんと作り置きしたものが冷蔵庫にいれてあるので、それを食べてくださいね。後は……」

「わかったわかった。後はなんかあればメッセで送ってくれ。あ、ちょっと待ってろよ」


 俺は一旦会話を止めて自室に戻り、財布を手に取ってすぐに戻ってくると、制服の上から俺がプレゼントしたコートを羽織った姿の結が玄関に立っていた。すぐ横にはトランクが置いてあり、後は出ていくだけって感じだ。


「ふふ、どうですか? このコート、制服にも合いますよね?」

「あぁ、よく似合ってるよ」


 うん。自分で買っておいてなんだけど、これは中々いいモノをプレゼントしたのでは?


「あ、ありがとうございますぅ」

「そうだ、これ」


 俺は財布から少しばかりの紙幣を出して結に

 差し出す。


「これ小遣い。せっかく滅多に行けない所に行くんだからこれで欲しいの買っておいで」

「え、いいですよー! お母さんからもおねえちゃんからも貰ってますし」

「いいからいいから」

「むぅ、なんかまた妹扱いされてる気が……」


 何を言うか。俺はコートのポケットに小遣いを入れると結の肩を持って半回転させて玄関のドアの方をむかせる。


「ほら、時間遅れるぞ?」

「あ! そうでした! じゃあ……お小遣いありがとうございます。行ってきますね」

「おぅ、気をつけてな。それと……もう結の事は妹としては見てないから」

「ふえっ!?」

「行ってらっしゃい」

「えっ? ええっ!?」

「ほーら、遅れるぞ~~」


 そう言って俺は手を振る。

 そして、何回もこっちを振り返りながら駅に向かう結を見届けると、玄関の戸をしめた。




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