第52話 「よし、これでポイントゲット」
学校に向かって歩いていると、二年がいないだけでもいつもより人が少く感じる。
まぁ、こんなもんかなー? って思いながら歩いていると、皆が学校に向かって向けて歩いている中、一人だけ足を止めてこっちを見ている生徒がいた。秋沢だ。
「よう、おはよーさん」
「ん、おはよ」
声をかけてそのまま歩き出すと、秋沢も俺の隣をちょうど一人分くらいの間隔をあけて歩き始めた。
「さっさと立ち去ろうとするなんてひどい」
「何言ってんだ」
「ボクの気持ちを知っての愚行」
「愚行言うな」
恋人とかに言われるならまだしも、お前は生徒だろうが。厳密に言えば違うかもしれんが。
そして歩いている内に少しづつ俺達の間の距離が狭くなってきた。
「おい、近いぞ。変な噂でもたったらどうすんだ」
「別にくっついたりしないから大丈夫。それとも腕とか組む? ボクの柔らかいよ?」
そんな事を言いながら上目遣いで俺を見上げながら、自分で自分の胸を持ち上げて見せてきた。その制服の上からでもわかるズシッとした感じに一瞬目を奪われそうになるが、なんとか気合いで目を逸らす。
なんだそれ。まだ一年なのに凶悪すぎるだろ……。
「ボク、Fだから天音先輩より大きい」
「聞いてねーよそんな事」
「知ってる。けど、今知った事でこうたんの頭の中にはFってインプットされたはず。きっと目の前でジャンプすれば釘付け間違いなし」
な、なんつー姑息な事を……見ないぞ見ないからな?
……ん? つーかちょっと待てよ。今なんつった?
「なぁ、今なんて呼んだ?」
「こうたん」
「なんで?」
「愛称?」
秋沢はそんな事を言いながら小首を傾げる。あ、あざといっ!
「お前な……今は周りに人がいないからいいものの、学校内では絶対その呼び方するなよ? いや、学校外でもだ。普通に[用務員さん]で良いだろうが」
「長い。断る」
はい、即却下されました。まったく……。
ピコンッ
おっ? 誰かからメッセ?
ポケットからスマホを出すと、案の定相手は結だった。
〖ん~眠くなって来ましたぁ~。だ・れ・か・さんのせいで~なんて。今新幹線の中ですけど
、トンネルばっかりでつまんな~い! 抜けたと思ったらまたトンネルです……〗
そんなメッセージと共に添付画像も付いてきた。これは結と……和華ちゃんか。二人が寄り添ってピースした写真だ。この二人ホントに仲良いんだな。
〖誰かさんて一体誰だ? 俺にはわからんなぁ~w トンネルで暇ならその隙に少しでも寝ておいてらどうだ? 二人とも可愛いぞ〗
送信っと。これを見るのはトンネル抜けた時かな? じゃないと電波入らないだろうし。そしてまた、後から見返すと悶えるメッセになった。むぅ、これはどうしたもんか……。
「天音先輩から?」
「ん? あぁ」
秋沢が横からいきなり顔を出てきた。びっくりするわ。つか近いな! もうほとんど隣じゃねーか。いつの間にだよ。
「なんてこと。修学旅行でいないからチャンスだと思ったのに、まさかメッセで翻弄してくるなんて」
「翻弄ってなんだよ。人聞きの悪い」
「ニヤニヤしてた」
「してない」
「してた。これはイケない。なんとかしないと」
「なんとかってなんだよ」
そんな俺の質問を無視すると秋沢はいきなり数歩前にタタタッと駆けだす。
そこでクルッと振り向くと、両手は後ろで組み、胸を強調するように少し前屈みになると、見たことも無いような笑顔でこう言った。
「じゃあわたし先に行くねっ! こうたんも早くしないと遅れちゃうぞっ? えへっ!」
……はぃ? なんだ? いきなりこいつは何をしている?
いきなりの事に俺が思考停止気味になっていると、秋沢はまたいつもの真顔に戻ってまっすぐ立つ。
「ふぅ……。どう?」
「え、何が?」
「言わなくてもわかってる。こういうのが好きなんでしょ? よし、これでポイントゲット。簡単」
「……」
何がなんだかわからずに俺が呆気に取られていると、また隣に戻ってきた。
「遅刻する。行こう」
「いや、先に行かないんかぁーい!!」
「あれは演出」
え、えぇぇ……。
━━いつも読んでくれてありがとうございます。
面白いよ! もっと読みたいよ!って思っていただけましたら幸いです。
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