第30話 「おにぃからのプレゼントだって!」

 ファミレスで昼食をとった後は、結が食材の買い出しをしたいというのでデパートへ。


 結と彩那が一緒にカートを押しながら進む中、俺はある程度の距離をとって後ろからついていく感じだ。誤解されないようにな。

 ならファミレスなんか行くなって言われそうだが、普通に気付かなかった。なんなら店を出てから気づいたくらいだ。

 昔はよく、柚も一緒に三人でファミレスとか来てたから油断していた。馴れって怖いわ……。

 ホント、生徒の誰とも会わなくて良かった……。


 てなわけで今は食品売場をウロウロ。少し前ではキャッキャッと盛り上がりながら買い物カゴに食材を入れていた。


「結ちゃん今日は何作るの?」

「ん〜最近お肉ばっかりだから今日はお魚かな? 鮭と秋刀魚が安いといいんだけど……」

「うぇ……彩那は魚苦手……。骨取るのめんどいもん」

「ふふ、それ晃太さんも言ってるよ? やっぱり兄妹だね。じゃあ鮮魚コーナー見てみよっか♪」


 こんな会話が聞こえてくる。

 そうなんだよ。魚は骨がなぁ……。鮭とか鯖はいいんだよ。すぐ気付くから! 秋刀魚とかイワシとかは油断すると俺の喉を攻めてくるから奴らは危険だ……。

 それにしてもよく見てんなぁ。気付かれてないと思ってたんだが……。

 と、その時、


「結ちゃんっ!」


 なんか声が聞こえた。


「あっ! 和華ちゃん!」


 あの子は確か……前に校庭で一緒にいた子か?

 見てみると、格好はスキニージーンズにオフショル。髪はサイドテールにしていて、なんか元気な感じの子だ。その子が結と彩那の所に駆け寄っていく。


「やほー! 結ちゃんも買い物? あたしも今お母さんと来てたんだ。ってあれ? そっちのすんごい可愛い子は? やーん! お姫様みたいで持って帰りたーい!」

「ふふっ、ダーメ! この子は彩那ちゃんって言うの。あの人の妹さんで、今日はみんな一緒にお出かけしてたんだ」

「……こんにちは」

「こんにちわ! あたしは結ちゃんの友達の水上和華ってゆーの。よろしくね」


 ん? あの人の? そこは知り合いの妹とかでよくないか?

 そして彩那は結の後ろにすっかり隠れている。そうだった。こいつ人見知りだったな……。でもちゃんと挨拶出来たのは偉いぞ!


「あぁ、あの人の。そっかそっか! 良かったねぇ♪」

「うん!」

「じゃあ、あたしは行くね! 後でメッセ送るから。また学校でね〜♪」

「うん、バイバイ」


 和華って子はそう言うと結達から離れた。そしてなぜかこちらに向かってくる。

 ちょっと待て。めっちゃ目が合ったんだが?

 そして俺の近くまで来ると、一度足を止めた。


「あたし、実は結ちゃんから聞いてるんです。誰にも言ってないから安心してください。結ちゃんは可愛いしイイ子なので絶対オススメです! 用務員さんと一緒だと素を出せるみたいだし……。 だからよろしくお願いしますね!」

「っ!?」


 そう、ボソッと言ってすぐに通り過ぎていった。いや、よろしくってなんだ? 結は一体何を言った!?

 視線を結に向けると、あからさまに視線を逸らした。こりゃあ、後でちゃんと聞かないとな……。


 その後は買い物も終わり、今は彩那を送る為に駅に向かって歩いてる最中だ。ちなみに食費はちゃんと多めに渡してある。一応念のための貯金もしてたし、なぜか退職金もちゃんと出たしな。


「じゃあ、気をつけて帰れよ。寄り道しないようにな」

「わかってるって」

「彩那ちゃん、また遊びに来てね?」

「うん! 絶対来る! じゃあもう電車くるから行くね。あっ、結ちゃんにはコレ。おにぃにはコレ」


 そう言って俺達に帰り際に渡してきたのは、最初に行ったあのロリロリの店からずっと彩那が持っていた紙袋を結に。それと長方形の紙切れは俺に。


「なんだこれ……は?」

「え、コレ彩那ちゃんのじゃないの?………ふぇっ!?」


 俺が渡された紙は領収書。

 結は俺の隣で紙袋の中を見て固まっている。


「結ちゃん、それおにぃからのプレゼントだって! 着てあげてね!」

「え、えっ、プレゼントって……えぇ!?」

「ちょっと待てコラ! 一体何を……お前まじか」


 紙袋の中身は、結が試着したあのメイド服だった。

 そして俺の領収書はその服の代金。思ったより高くはないが。


 そして彩那を呼び止めた時にはもう遅く、改札の向こうに行ってしまっていた。

 こいつ、最初から計画してやがったな……。


「じゃ、二人ともばいばーい!」


 彩那はそう言うと、ものすっごい笑顔で電車の中に入っていった。

 そして残される俺と、ゴスロリメイド服の入った紙袋を持った結。


「あーじゃあ、帰る……か?」

「あ、はい……」


 その後、アパートに帰ってから俺は自室で時間を潰し、結は夕飯の準備を始めた。


「こ、晃太さん? ご飯できましたよ?」

「んー? わかった。今行く」


 そしてカーテンを開いて結の部屋に入るとそこには……


「えっと……今日はお魚です。ご、ご主人……様……」


 顔を赤く染めたJKメイドさんがいた。




 〜彩那〜


 ん〜あの二人、何もしなくてもくっつくんじゃないのかな?

 おにぃはモテる感じじゃないから、ライバルとかいなそうだし。

 お母さん達も「支援するわよ!」とか言ってたのに全然連絡来ないし。きっと、朝送った写真で結ちゃんのお母さんと盛り上がって忘れてたんだろうなぁ。

 まぁいっか。きっと時間の問題だね♪

 とりあえず彩那もお母さんにお菓子とかの作り方とか教えて貰おっと♪

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