第31話 「私の姉さん」

 俺の精神衛生上よくない為、結にはすぐに着替えて貰って夕食再開。


 あんな格好で目の前で飯食われた日にはもう……なんかもう駄目だろ!


 ちなみに結はホッとしたような残念なような複雑な顔をしていたが、理由を言うと妙に嬉しそうにしていた。

 いや、そんな顔されたら勘違いするから。って勘違いじゃないのか。もう想いは伝えられてんだもんな……。


 あー! ホントどーすればいいんだよ……あ!

 そういえば結に聞くことがあったんだった。


「なぁ結。そういえば今日デパートでさ、あの子。えっと……和華ちゃんだっけ? その子に「結ちゃんから聞いてます」って言われたんだが?」

「……なんのことでしょうか?」

「目をそらすなよ? ほら、話してみなさい」

「……はい。とは言っても、同棲してることは言ってませんよ? ただその……好きな人だって事だけをついこの間……」

「この間?」

「はい、前に体育の時間に晃太さんが来た時あったじゃないですか? その時にちょっと取り乱しちゃって、その流れで……みたいな?」


 あぁ〜あの時ね。

 あれは俺もちょっと失敗したな。すぐに別の教員を呼べば良かったのに、つい知った顔だからって行っちゃったもんな。

 これは俺はなんも言えないや。


「そうか……。まぁあれは俺も悪かったからな……」

「そんなことないです! う、嬉しかったですから!」

「お、おう。そうか……」

「それに和華ちゃんは信用できるから大丈夫です。私の事をちゃんと見てくれてるんですよ。聖女とかって絶対言わないんです!」


 そういえば前も聖女なんかじゃ……なんて言ってたな。そもそもなんで聖女なんて言われるようになったんだ?


「なぁ、その聖女様なんだけどさ、呼ばれたのはいつからなんだ? 何か理由でもあるのか?」

「わからないんです。入学してすぐくらいにいきなり上級生の男性に告白と一緒にそう呼ばれて、そこからどんどん広まっていって……。だから特に何かをしたってわけじゃないんです」

「なるほどねぇ……」

「そのせいでなんか周りと少し距離がある感じがして嫌なんですよね。でも和華ちゃんだけはずっと変わらないで接してくれる大事な友達なんです」


 結は柚が初代聖女とか呼ばれてるのは知らない? もしかしてそれが関係してるのか?


 ん〜今度柚に聞いてみ……たいけど、聞けるかな? 昨日の感じのままだとアレだけど……。

 ふぅ、変に考えすぎても駄目だな。とりあえず次会った時にわかるだろ。


 とりあえずは、目の前の事だ。


「そっか、なら大切にしないとな」

「はいっ!」


 結はとても嬉しそうにしている。信用できる友人がいるのはいいもんだもんな。

 俺だったら隼人が。柚なら比奈がそうだったように。


「だけど、まだ付き合ってるとかじゃないんだし、絶対に共同生活してるのはバレないようにな?」

? 今、まだって言いました!?」

「あ、いや、ほら! 先の事はわからないしな! そういう意味のまだだからな!」

「ふふ、そういうことにしておきます。その内、まだなんて言わせないようにしちゃいますからね? あの服もありますし」

「は、はは……」


 はぁ、理性ってどうやって鍛えたらいいんだ?




 そして翌朝、結の作った弁当を受け取って見送られて仕事に向かってる時、スマホにめずらしく比奈からメッセージが届いた。

 内容は


『なんかどんまい!』


 いや、なんに対してだよ!?

 って思ったが、答えは学校に行くとすぐにわかった。

 柚が俺を避けてる。もうわかりやすいくらいに。目が合うと、ギョッ!として早足で立ち去っていくのだ。しかも顔を赤くして。

 いや、あれだけ酔ってたからわからないでもないけどさ、せめて仕事の事はちゃんと連絡を……。

 ってここでそのままにするのが俺の悪いところなんだよな。

 よし、放課後にでも話してみるか! 聖女の話も聞いてみたいし。



 そして放課後。何故か俺の前には秋沢がいた。

 今日は昼に倉庫に来なかったから、今日はもう来ないもんだと思ってたんだが。


「どうした?」

「べつに?」

「なんか用があるわけじゃないのか?」

「ない」

「俺は用事があるんだが?」


 早くしないと柚が帰ってしまう。


「学校? 外?」

「どっちもかな? ちょっと仕事の事で天音先生にな」

「天音先生ならさっき校門に向かった」

「まじか! 急がないと。じゃあな……ってなんで俺についてくる?」

「ちょっとね」


 なんなんだ? まぁいい。とりあえず柚だ。


 そして校門の近くまでくると、柚の後ろ姿が見えた。どうやら誰かと話してるみたいだな。

 ちょうどよかったや。


「おい柚、ちょっといいか?」

「え、晃太!?」


 俺の声に驚いて柚が振り向く。


「いやいや、なんでそんなにびっくりして………え? な、なんで?」


 そして柚と話していた人物の姿も柚の影からでてきた。

 俺の視界にうつるその人物は、見慣れた顔と声で、俺に向かって口を開く。


「久しぶり、こうちゃん」

「な、なん……で? 香澄……が?」


 そこにいたのは元カノの香澄だった。


「あと、真澄も会うのは久しぶりだね」

「ん、久しぶり。姉さん」

「ね、姉……さん?」

「そう。私の姉さんの森口香澄」



 なっ! 香澄と秋沢が姉妹!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る