第26話 「ん……ダメ……」
えーっと結さん? 迷わず向かったってことは、今日は最初から俺のベッドで寝てましたね?
さて、どうしようか。
結はもう俺に背を向けて寝てしまった。さすがに一緒に寝るわけにもいかないし、だからと言って俺が結のベッドで寝るわけにもいかない。さっき鍵開けるので起こしてしまったから、また起こすのもな……。
しょうがないので、俺は押し入れから厚手の毛布とタオルケットを出して、音をたてないようにベッド脇のテーブルをどかすとそこに毛布を敷いた。その上にタオルケット。枕も使われているため、バスタオルを折り畳んで枕かわりにする。
これでよし。
寝床の確保が終わってからいつものジャージに着替えて、酒を一缶だけ開ける。つまみは……今度だな。ガサガサうるさくなるし。これ一本だけ飲んだら俺も寝よう。
ベッドの縁によりかかり、スマホをいじりながらチビチビ飲んでいく。
と、その時、後ろから白く細い足が俺のすぐ横ににゅっと伸びてきた。
「っ!」
ゆっくり振り向いて確認すると、どうやら結が寝返りをうったみたいだ。こちらに背中を向けていたはずが今は顔がこっちを向いている。
スースーと寝息こそ可愛いが、足は投げ出され、布団は壁側に追いやられてしまっていた。更に、パジャマの裾は少しめくれてお腹が見えてしまっている。
もしかして……結構寝相悪い?
とりあえず布団かけ直してやるか。腹冷やすとまずいしな。
そう思って結の向こう側にある布団に手を伸ばす。だが、少し届かずにベッドに手をついてしまう。その時に、ベッドの上に広がっていた結の髪の上に手を置いてしまった為に、少し髪を引っ張る感じになってしまった。
パチッと結の目が開く。
その目と俺の目が合う。ちがうぞ? 襲おうなんて思ってないからな!?
「あ、えと、起こしちゃったか?」
そう語りかけるが、返事はなくジッと俺をみてくるだけ。すると急に結の腕が二本とも伸びてくる。その手は俺の頭をしっかり掴むと、すごい力で自分の胸元に抱き寄せた。
「んぷっ!」
ものすごく柔らかいものに顔が包まれる。
これ、ノーブラか!? じゃなくてこれはマズイだろ! なんとか抜け出そうとするが、思ったより結の力が強いのと、あまり動くわけにもいかないのもあってか中々抜け出せない。手を使おうにも、うっかり胸に触ってしまいそうでどうにもこうにも……。
それでもなんとか頭だけつかって逃げようとするが……
「ん……ダメ……」
そう言いながら更に強くしがみつかれる。そして更に俺の顔が埋まる。結は寝たままだ。
ダメだこりゃ。力が弱くなるまで待って、そしたら抜け出そう。それまで耐えてくれ俺の理性。
だが健闘むなしく、謎の安心感によって俺の意識は薄れていった……。
「おはようございます。晃太さん」
そんな結の声で意識が覚醒する。いつのまにか寝てたんだな。にしても体が痛い……。
あぁ、そうか。昨日は床に寝たんだった。体がちゃんと横になってるって事は、途中で結の手から解放されたんだろう。
「あの、ごめんなさい。ベッド使っちゃって」
声がするほうに顔を向けると、結がベッドの上から顔だけ出していた。
「あぁ、別にいいよ。にしてもなんで俺のベッドで?」
俺は体を起こしながら尋ねる。
「ちょっと寂しくなっちゃいまして、ベッドに潜ったら晃太さんの匂いに安心して寝ちゃってました……へへ」
ちょ、おま……それはさすがに照れるわ……。
「そ、そうか……」
「はい。でも晃太さんはなんで床で? 私の部屋のベッド空いてたのに」
「あーそれはなんか……な?」
「残念です。今夜また晃太さんの匂いと一緒に寝れると思ったのに」
「ちょっとそれはハズイから勘弁してくれ……」
「えー、私も恥ずかしいですよ? 目が覚めたら晃太さんってば私の胸を枕にして寝てるんですもん」
「んなっ!? まじか? それは……すまん」
「はい。私はそのままでも良かったんですけど、体勢が辛そうだったのですぐに横にしました。ホントはベッドに上げたかったんですけど、私の力では無理でした」
「そ、そうか……」
そうか、俺が動いたんじゃなくて動かされていたのか……。
「さ、起きましょうか。もう九時ですし」
「もうそんな時間だったのか」
「はい、私も寝すぎちゃいました」
結はそう言いながらベッドから立つ。少しパジャマが着崩れていて、目のやり場に困った。
その事を伝えようとしたその時、俺の方の玄関のベルが鳴った。
休みの日のこんな早くに誰だ?
俺も起きてインターホンの通話ボタンを押す。
「はい」
「こっち帰ってきてから全然構ってくれないはくじょーもんのおにぃのとこに可愛い妹が遊びにきたよ! このやろー!」
……え?
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