第7話 「シャンプー変えたんですよ?」

 どうしてこうなったのかを考えながら玄関でボーッとしてたら声をかけられた。


「晃太おにいちゃん? どうしました?」

「ん? あぁいや、なんでもない。ちょっと色々と思い出してた。つーか、なんでわざわざこっちに?」

「いいじゃないですか。「おかえり」って言いたかったんです。あ、おでん貸してください。今暖め直しますから」

「あいよ」


 おでんが入った袋を手渡すと、結はそれを持ってパタパタと自分の部屋側のキッチンに向かっていく。

 さて、俺はいつも通りに風呂の掃除でもしますかね……。


 ちなみにこの部屋は、元々1Kだ。風呂とトイレはちゃんと別で付いている。それが壁をくり貫かれて、引き戸だけで繋がった状態。

 で、この繋がった部屋の使い方はちゃんと決まっている。

 あくまで俺は保護者の立場であって、同棲ではない。同居だ。


 簡単に説明すると、食事は基本的に料理を担当している結の部屋だ。俺が勝手に自分の部屋で食べようとすると拗ねる。


 食事等の後の自由な時間は各々の部屋で過ごす。とは言っても、部屋が繋がってるからあまり意味がないんだけどな。

 視線を少しずらせばすぐに相手の姿見えるし。

 ただし、着替える時は戸を閉めてカーテンをひく。


 後、洗濯は個々で行う。これは当然。男と女だからな。


 そして風呂なんだが、それは二人とも俺の部屋のを使っている。「各自の部屋でいいだろ?」って言ったが、結が言うには「ダメです。お湯がもったいないです」とのこと。

 ちなみに、結の部屋の浴室には乾燥機能がついているらしく、外に干せないものを干す為に使われているらしい。所謂、下着とからしいから俺は入れない。入らない。

 顔を真っ赤にしながら告げられた時は、俺はなんも言えなくなった。


 ただ、風呂から上がって無防備な格好のまま俺の前を通るのは勘弁してほしい。

 そしてわざわざ近くまで来て「お風呂上がりました」の報告もいらない。わかるから。

「シャンプー変えたんですよ? 」もいいから。浴室見ればわかるから。近くに来た時の匂いでもわかるから。

 いや、ほんと、ちょっと勘弁して……。


 そして寝る時も別々。当たり前だ。

 だけど、寝る時は戸は閉めていない。これも結からの提案で、「何かあった時にすぐに行けないと困るじゃないですか」だってさ。

 俺としては色々とあるので、閉めたいしカーテンも引きたいんだが、それは却下された。

 あれ? 俺、流されすぎか?

 でも、道理は通ってるんだよなぁ……はぁ。


 そんな事を考えながらモソモソといつもの部屋着に着替える。ってもただの安物ジャージだけどな。昔はもっと服に気を使ってたような気もするけど、年を重ねるにつれて無頓着になってきたな。まぁいいさ、見せる相手がいるわけでもないし。

 そのまま風呂掃除をして、終わって出て来たところでちょうど声がかかった。


「晃太おにいちゃん掃除終わりました? ご飯出来ましたよ」

「わかった。今行く」


 俺は結の部屋に行くと、猫柄の布団が乗せてあるベッドの脇の薄いピンクの小さなテーブルの側に腰を下ろす。結が元々持ち込んでたやつだが、二人ならこの大きさでも十分だな。


「今持って行きますね」


 結はそう言いながらキッチンから夕飯をお盆に乗せて持って……え?


 キッチンから出て来た結の姿は、なんていうか……モコモコだった。いつの間に着替えた?

 あ、俺が風呂洗ってる時か。

 上下とも白と薄い水色のストライプ柄で、下はショートパンツって言うのか? そんな感じで、モコモコから出た白い太ももがあらわになっている。

 上もモコモコで七分丈だが、胸元が大きく開いている。

 結のやつ、柚とは違って結構大きいから目のやり場に困るんだよな……。


「この部屋着どうですか? この間おねえちゃんと一緒に買ってきたんです。可愛くないですか?」

「ん、あぁ……そうか」


 夕飯をテーブルに置きながらそんな事を言ってくる。ほう、柚と一緒にね。あいつが凹んでる姿が目に浮かぶなぁ。


「あの……あんまり好きじゃないです?」


 やべ、適当に返事しすぎた。


「いや、可愛いぞ。似合ってる似合ってる。ただ、その格好では宅配便とか来たときに出ない方がいいと思うけどな」

「それは大丈夫です。一人にしか見せませんから」

「未来の旦那様とかか?」

「…………はぁ」


 なんだよそのため息は!


 しかし、その姿で目の前に座られるとほんとにどこを見てればいいのやら……。

 どうにも視線が落ち着かずにキョロキョロしていると、ベッド脇のサイドテーブルの上にあるノートパソコンが視界にうつった。


 その画面に映っていたのは……。


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