第8話 「三回目です」
結のノートパソコンに表示されていたもの。
それは、今日の帰り道に俺が話した駅裏の弁当屋のマップだった。
「なぁ結、これって……」
「っ!」
「今日話した弁当屋の「ちがうんですっ!」おぉ?」
「これはあのっ! なんでもなくて、その、帰り道に言ってたのがちょっと気になったっていうかその……」
すげぇ食い気味にきたな。
俺の膝の上を乗り越えてまでパソコンに手を伸ばしてきたし……ちょっと待て! まずいまずいまずい!
なんか色々やわらかくてやばいっ!
「ちょっ! 結! わかったから! わかったから上から避けろ」
「え?……きゃっ」
自分の体勢に気がついたのか、俺の膝の上からピョンと避けた。そして自分の場所に戻ると俯いて縮こまってしまった。猫みたいだな。
後、あんまり俯くと胸元がだな? その、開いちゃってるから、出来れば顔を起こしてくれないかなぁ。なんて思う。
さて、それにしても……
「「…………」」
気まずっ! いや、ここで気まずくなったらダメなんだよ。俺は保護者! 結だって焦るあまりに回りが見えなくなっただけだろうしな。
「結、大丈夫だ。わかったから」
「わかったん……ですか?」
結は答えながら顔をあげる。
「もちろんだ。俺はお前より九年も長く生きてるんだぞ? 当たり前だ」
「そうですか……。ごめんなさい。どうしても気になってしまって……」
「まぁ、そういう事もあるよな。あんな事を聞けばしょうがない」
「そうです! 晃太おにいちゃんがあんな事を言うからです!」
「わかったってば。今度買ってくるから」
「……はい?」
「弁当だろ? 明日買ってくるよ」
「……三回目です」
「何が?」
「こんなやり取り、今日だけでもう三回目です」
ちょっと待て。何のことだ? 見当もつかねぇぞ?
「ほんとにもう……ほんとにほんとにほんとにほんとに……」
結は一度口を閉じたかと思ったら、上目遣いに俺を睨んでこう言った。
「晃太おにいちゃんのあほぅ……」
あほぅ!? バカとかじゃなくてアホ!?
俺が一体何をしたってんだ。
「あの、結さん?」
「もういいです。覚悟はしてましたから。それよりも冷めちゃう前にご飯食べましょう」
「あ、はい」
その後は普通に夕食タイムになった。
さっきまでのは何だったんだ? 覚悟ってなんだ!?
ちなみに今日の夕飯はコンビニで買ったおでんと、結の作った生姜焼きとサラダ。旨かった!
誉めたら喜んでくれたから、もう怒ってないだろう。と、思いたい。
なんで怒ったのか知らんけど。
女はホントにわからん。ホントに。
食べた後は使った食器洗い。これは俺がやる。最初のうちはやらせてくれなかったけど、料理を作ってもらってばかりでは心苦しかった為、頼み込んでこれだけは俺の仕事にしてもらった。
そんなわけでキッチンで俺がカチャカチャやってると、すぐ後ろに人の気配。
「どうした?」
「あの、晃太おにいちゃんはおねえちゃんの彼氏って見たことあります?」
「いや、ないな。そもそもこっち帰って来てから初めて聞いたからなぁ」
「一緒に住んでた頃、スマホ見ながらニコニコしてた時があったんですけど、彼氏からだったんでしょうか?」
「ニコニコねぇ……」
「どんな人なんでしょうね?」
「さぁなぁ。あいつの彼氏になるなら相当な精神力が必要だろうけどな」
「さすが……ですね」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもないです。お風呂行ってきますね」
「あいよ」
柚に彼氏ね。ホントにどんな奴なんだか。
俺は最後の一枚を洗い終えると、自室に行って充電していたスマホを手に取る。
画面を見ると、時間は夜八時になるかならないかってとこ。
特に何も来てないな……。
そのままお気に入りの座椅子に座ってスマホのゲームを始め、買ってきた酒に手を伸ばしたところで玄関からチャイムが鳴る。しかも俺の部屋の方だ。
誰だ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます