第3話 「おかえりなさい」

 結と一緒に(引っ張られて)コンビニを出て少し進んだところで足を止める。


「結、さっきのはなんなんだ?」

「何がですか?」


 結はまるで、さっきの行動が当然かのように横で首をかしげてくる。それと同時にサラサラの黒髪が横に流れた。


「何がって……「晃太さん」とか言って腕組んできたりしただろ? いつもは「晃太おにいちゃん」なのに」

「なんででしょうね」


 この野郎。おでんの追加だけならまだしも、それが決定的になったんだからな?


「まったく、最後のあの顔見たか? ぜってぇ女子高生に手を出してる奴だって思われたわ。くそぅ、だんだん話できるようになってきたのに」

「別に、思われるくらいならいいじゃないですか。ホントは手を出してないんですし。それに、あんなの会話の内に入りませんよ」

「当たり前だろ。出すわけないわ! そしてその事は言うな」

「え? 出さないんですか?」

「……へ?」

「いつでも出していいのに……」

「はいはい、なぁに言ってんだお前は」

「むぅ」


 睨むな。そして頬をふくらませるな。ホントはこいつは何を言ってんだ? 俺に捕まれと? そんなことしたら学校中の聖女様ファンから刺されるわ!

 それこそ、今日結に告白してた奴みたいなのからな!

 ……ん? 校舎裏で別れた後から結構時間たってるよな? なんでこいつがあのコンビニに?


「なぁ、なんであのコンビニにいたんだ? あの後すぐ帰らなかったのか?」

「帰ってる途中でしたよ? けど途中でおねえちゃ……買い忘れを思い出して戻って来たんです」


 ん? なんか言いかけたか? おねえちゃん? 柚? よくわからんが。

 それにしても……


「そんな戻らなきゃいけないやつなら、俺に連絡くれりゃ買っていったのに。で、何を忘れたんだ? ちゃんと買えたのか?」

「………」

「おーい、結?」


 なーんか目が泳いでるな。


「えーっとですね、そのぉ……えっと……」

「言えないような物か? ……もしかして!」

「ちがいます」

「まだ何もいってねぇぞ」

「言わなくてもなんとなくわかります。ちがいます」


 なんだ、つまらん。


「そうかい。いや、買い忘れってわりには手に何も持ってなかったからな、気になったんだよ」


「そ、そうですか。まぁあれですよ。見せる程のものではないということで、気にしないでください」

「ん? そうか。わかった」

「それに、もし買ったのが下着とかだったらどうします? 見ます?」

「いや、見ない」

「即答されるのもそれはそれでなんだか……」


 どっちだよ。

 そしてそのまま並んで歩き出す。帰り道は一緒だからな。

 その途中で結が思い出したかのように俺に聞いてきた。


「そういえば、こっちに帰って来る前に失恋したんですよね?」

「お? おぉ、したした。大失恋な」

「そのわりには早くないですか? 好きな人見つけるの。……あの胸ですか?」

「いや、別に好きな人ってわけでもないんだがな。それはそれ、これはこれ。後、胸は関係ない……とも言えなくもなくなくなくない」

「どっちですか……。なら今好きな人は?」

「いないいない」

「そうですか。……♪」

「あ、でも……」

「え? 【でも】なんですか!?」

「たまに昼飯を買う駅裏の弁当屋の子もなかなか……」

「……へんたい」

「ちょっとまて、どこに変態の要素があった!?」


 そんな会話をしてるうちに、俺が住んでるアパート前に着いた。

 ちなみにこのアパートはうちの両親が経営しているものだが、現在では新規入居者はとっておらず二部屋しか使われていない。

 その内の一部屋が俺だ。

 もう一部屋は……


「では、私はこっちなので」


 結が使っている。


「あいよ。俺は回覧板入ってたから次の家に回してから入るわ」

「お願いしますね」


 これ、おかしな会話だと思うだろ?

 その答えはすぐ出るさ。


 結は部屋の鍵をとりだして、を開けて中に入っていった。

 俺もアパートの隣の家に回覧板を置き、戻ってきて鍵を出し、結の部屋の隣に位置するを開けて中に入る。すると、


「おかえりなさい」

「あぁ、ただいま」


 そこには制服の上にエプロンをつけた結がいて、俺を出迎えてくれた。


 わかったか?

 つまりだな、1つの部屋に玄関が二つあるってことだ。


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