第2話 「あ、大根もう一個お願いします」

 さぁて、仕事終わり終わりっと♪

 道具を片付けて〜タイムカード押して〜後は帰るだけぇ〜♪


「ちょっと晃太!」


 ……靴を履いてバッグ持って……bag持って……バッグが無いのはどういうことだ!?

 まさか神隠し!?


「ふっふっふ、お探しものはこれかしら?」

「なっ! きさま何奴! それを返せ! それには俺の命を繋ぎ止める物(財布)が!」

「あーら、そんな態度を取ってもいいのかしらね? このバックのチャックを引っ張る金具だけを取ってもいいと言うのね?」

「くっ! そこを取られたらレジ前で開きたいのに開けずにイライラしてしまうっ!」

「ほーほほほほっ! ……っていつまで続けるのよコレ」

「いや、始めたのお前だろうがよ。柚」

「まぁ、それもそうね」


 このノリがいいのは俺の保育園からの幼馴染みで、【天音あまね ゆず】。名字でわかるとおりに、結の姉ちゃんだ。俺にこの仕事を紹介してくれた恩人でもある。

  顔は結を大人っぽくした感じでよく似ている。そう、よく似ているのだ。

 スタイルに関しては、細身でスラッとしている。

 そして今は、目の前で腕を組んでこっちを見ているが……うん。腕を組んでも乗らないし、胸を張っても目立たないな。こっちは似てない。どんまい。


「ちょっとなにその笑顔。なんかムカつキモい」

「うっせ。で、何の用だ? ん?……ムカつキモいってなんだ!?」

「特に用は無いんだけど、見かけたからちょっかい出そうと思って。はぁ、いいわねあんたは帰れて。アタシは今からテスト作らなきゃいけないのに……はぁ」

「まぁ、お前は教師で俺は用務員だからな」

「そうよね。で、このまままっすぐ帰るの?」

「いや、コンビニ寄って帰るわ」

コンビニ?」

「そう、コンビニ」

「はぁぁぁぁ……無駄なことを……」


 いや、ため息でけぇよ。なんだお前ら姉妹揃って。


「うるせぇよ。俺の密かな癒しなんだよ」

「まぁいいわ。そいえば結は? 一緒に帰らないの?」

「結はさっき告白されてたな。フッてたけど。一緒に帰ろうみたいなのは言われたけど、コンビニ寄るから断った」

「そりゃフるでしょうよ……。え? 結に誘われたのになんで断るの?」

「だって一緒に行ったりすれば、彼女いるとか思われてチャンスなくなるじゃん」

「あーうん。そうね。そうだわ。あんたは昔からそうだわ。ほらバック、さっさと行きなさい。そして遥かな高みからお釣りを落とされなさい」

「おぅ! じゃあな」


 俺は、何故かスマホを取り出した柚からバックを受け取り、職員玄関から出ていこうとすると柚は誰かに電話をかけ始めた。


「あ、もしもし? ……うん。晃太は……そう。……頑張って」


 俺の話? 誰に? まぁいいか。



 ◇◇◇


 学園を出てしばらく歩くと駅がある。俺が住んでる部屋にまっすぐ帰るのであれば、本来なら通らない道だ。

 そしてその駅の横にあるコンビニ。そこに俺は用があった。


 自動ドアが開くと、店内から流行りの曲と一緒にオススメ商品のアナウンスが聞こえてくる。

 周囲の会社や学生の帰宅の時間と重なってることもあり、店内は割りと混雑していた。

 レジを見ると、あの子もいる。確か、柊木って名札に書いてあったな。


 俺はそのまま今夜のツマミ用に冷蔵コーナーから餃子を取り、酒も何本かカゴに入れてレジを伺うと、ちょうど客がとぎれた所だった。


 今だな! 少し早足気味にレジに向かう。

 カウンターの上にカゴを置く。


「いらっしゃいませ」

「どうも」

「あ、おつかれさまです♪ お仕事終わりですかぁ?」

「えぇまぁ」

「今日はおでんどうします?」

「あ〜買おうかな?」

「ですよね♪ いつも買ってますもん。ふふ」


 はぁぁぁぁ! 可愛い!

 童顔だけど、大学生くらいかな? そしてなによりもその胸! すばらしいっ!!

 童顔巨乳はロマンだろ? 違う? あれ?

 まぁ、人の好みはそれぞれだからな。

 彼氏いんのかな? いてもおかしくはなそうだけど……。

 てか、いつもって言ってるくらいだし、俺の事覚えてるってことだよな? それに、お釣りを渡すときに手が離れてるのも照れてるからだと思えば……ワンチャンある?


「今日はどれにしますか?」


 おっと、見すぎはだめだ。女性は視線に敏感らしいからな。さて、注文注文。


「今日は……たまごとはんぺんにがんも、あとは牛スジと大根にしようかな」

「はぁ〜い」


 返事をしながら俺が言ったものを専用容器に入れていく。

 と、そこで横から声がかかった。すごく聞き覚えのある声が。


「あ、大根もう一個お願いします。牛スジも。一緒に食べるので同じ容器でいいですよ?」

「「え?」」


 俺とレジの子の声が重なった。


「え? 結? なんで?」

「なんでって……。一緒に帰りたかったからですよ? あと私もおでん食べたくなったので。一人で食べるなんてズルいです。晃太さん」


 そこにいたのは結。格好は制服。学校帰りなんだもん、そりゃそうだ。

 結はそう言いながら顔をプイッとしつつも、俺の腕に手を回してきた。おいおい、なんだそりゃ。なんのつもりだ?


「え? いや、えっと……」

「えっとお客さん、会計もご一緒でよろしいですか?」

「へ? あ、はい」


 戸惑ってるところに声をかけられて、俺はつい返事をしてしまう。

 そのまま会計は進み、細かいのが無かった為にまとまった金を出す。


「◯◯◯円のお返しでーす」


 その声に対して俺は手をだす。

 すると、お釣りを持ったレジの子の手は、俺の手を通りすぎてカウンター上の小さなトレーにたどり着いた。


「ありがとうございました」


 真顔だった。

 ち、ちがうんだ! この子は妹みたいなもので彼女とかじゃ「晃太さん行きましょう」あぁぁぁぁぁぁ……。


 結に腕を引っ張られて行く中でもう一度レジを見ると、次の客(イケメン)とニコニコと談笑していた。


 オワタ!

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