用務員さんの同棲相手は学園で聖女と呼ばれる幼馴染みでした。

あゆう

第1話 用務員さんと告白現場

 この落ち葉

 集めてもほら

 飛んでいく


 【真峠まとうげ 晃太こうた】 二十六歳 嘆きの俳句


 ──なんちゃって。

 はぁ、しっかし今日は風が強いな。こんな日に校舎回りの掃除なんてやらせやがってあの野郎。

 まぁ、仕事貰ってる身としてはそんな事を思っていても、直接文句なんか言えませんけどね……。言ったら逆に何を言われるかわかったもんじゃない。

 きっと正座させられて、小一時間は「ちょっと晃太!あんたはホントに……」とかってガミガミと説教が続いてきっと俺の足は……あーこわいこわい。


 そんな事を考えながら竹箒を片手に辺りを見回すけど、今の季節は秋。辺り一面に落ち葉が舞い狂って落ちていっている。

 っておい、そこはさっき掃いたとこだぞ。そこに落ちるな。こっちに落ちろ。ちょうど今集めてるんだから! あぁっ! また風がぁぁ!


 ……にしてもホントこれ、いつになったら終わるんだ? 後ろを振り向けばそこにはすでに袋詰めになった落ち葉が積み重なっている。こりゃ明日は今日の続きかな?

 昔の漫画とかだとこれで焼き芋とかやってキャッキャッするんだろけど、現実じゃ通報されて怒られる未来しか見えんな。

 まぁいいさ。後少しで用務員としての勤務時間も終わりだ。帰りに最近お気に入りの店員がいるコンビニでも寄って、おでん買って帰ろう。うん、そうしよう。

 お釣りを渡すときに手が上に離れ過ぎてるような気もするけど気にしない。気にしないったら気にしない。


 とりあえずは今集めた分だけ袋に詰めて終わりにするか……。


【ピロン】


 ……まさか仕事の追加か? いやいやいや、もう帰る気満々だったんですけど?

 そう思いながらも恐る恐るスマホを見るとそこには想定していた人物とは違う、予想外の相手からのメッセージが届いている。


『今どこにいますか?』


 ん? なんでこいつが俺に? まぁいいか。

 タップタップタップ……あ、間違えた。あぁ! 今度は消しすぎた。 くそっこのっ……よし完成。フリック入力? なにそれ知りません。


『校舎裏の落ち葉掃除。なんか用か?』


 送信っと。


【ピロン】


 返事はえぇな! あれか、フリック入力ってやつか? 俺はひたすら連続タップだぞ!?


『そうですか。いえ、用はないです。ホントになんとなくです。他意も何もありません。ホントにありません』


 お、おおぅ……。否定がすげぇ。さすがにちょっと凹むぞ……。

 まぁ用が無いならいいか。


 よし、袋詰め終了。全部で十袋か。まぁ二、三往復で行けるだろう。

 集めた枯れ葉を入れる時に一緒に入った土のせいもあって、まぁまぁな重さの袋を担いで焼却炉に向かって歩いていくと何か声が聞こえてきた。なんだ?


「あ、ありがとう天音さん。来てくれてほんとに嬉しい。けど、僕は屋上って言ったのにどうしてここに変更したのかな?」

「えっと……特に意味はないですね。それで話というのは?」


 うわっ、絶対コレ告白じゃねぇーか! しかも結構なイケメン! ってか相手の女の子ってまさか……!


「えっと……あ、天音 結さん! 二年生になってからのクラス替えで一緒になった時から好きでした! 僕と付き合ってくれませんか?」


 おぉ! 言った! 今時こんなちゃんとした告白ってあるんだなぁ。で、答えはどうなんだ? この男子割りと優良物件じゃないか? 顔だけ見るとだけど。


「ありがとう。気持ちは嬉しいけれど、ごめんなさい」

「あ〜やっぱりだめかぁ」

「やっぱり?」

「えっと、聖女様は誰の告白も断るって噂になっててね。ちなみに好きな人はいるの?」


 そこは俺もちょっと気になるな。どうなんだ? そんな話は聞いたことないけど。

 俺が建物の陰からそっと覗いていると、しばらく考えた後、彼女は白く細い人差し指を口元に当て、少し頬を染めながら言った。


「それは……内緒です」

「ぐっ……」


 ん? あいつ一瞬こっち見たか? まさかな。

 つーかおい、どうした少年。胸なんか押さえて顔も真っ赤じゃねーか。ピーポー呼ぶか?


「なんかもう答えを聞いたような気がするよ。これは諦めるしかないかなぁ」

「ふふ、そうですね。けど、こうして想いを伝えてくれたのは嬉しかったですよ? 」

「はは、そう言ってくれたならフラれても後悔は少ししかないかな? じゃあ僕は行くね」

「はい、また明日」


 フラれた少年はさわやかに立ち去っていく。さすがだ。フラれてもイケメンだ。ちくしょう。

 さてと、


「よう聖女様、モテモテじゃねーか。さすがだな」

「……見てたんですね。それに私、聖女なんかじゃないですよ、晃太こうたおにい「待った」はい?」

「学園ではお兄ちゃんじゃなくて[用務員さん]だろ?」

「そうでしたね」


 俺は一人残った少女の前に出ていく。

 目の前にいる、腰まである綺麗なストレートの黒髪をした大きなクリッとした目をした美少女。こいつは【天音あまね ゆい】 仕事を探していた俺をこの学園の用務員として呼んだ幼馴染みの妹で十七歳。つまりこいつも俺の幼馴染みで妹みたいなもんだな。


「それでその[用務員さん]のここの掃除はお姉ちゃんの指示ですか?」

「あぁそうだな。まったく人使いの荒い……。今の時期の落ち葉なんて集めても集めてもキリがないってのに」


 そしてその幼馴染みも同じ学園に勤めている教師だ。めっちゃ怖い。昔から。


「ふふ、仕事を斡旋してくれたんですからそんなに文句言っちゃダメですよ」

「あーうん、まぁ、そこは感謝してるんだけどな。あのままだったら今頃路頭に迷ってるの確実だしな」

「そうですよー」

「それにしても、話聞いてて思ったんだけどさぁ、最初は呼び出しの場所は屋上だったんだろ? なんでこっちに変えたんだ? あのメッセージになんかしら意図があったんだろ?」

「っ! あの……えっと……もしかしたら告白聞いて嫉「わかった!」え?」

「今日風強いもんなぁ。スカートとか捲れたら大変だもんなぁ……。パンツ見えるし。後は何かあった時の為のボディーガード的な? 女子は色々大変だもんなぁ」

「パッ……!」

「どうした?」


 なんか真っ赤になってプルプルしてる? 気のせいか?


「……なんでもないです」

「そうか? じゃあ俺はゴミ捨てて帰るわ! 丁度勤務終了時間だしな」

「あの、たまには一緒に……」

「あー、ごめん今度な。今日は寄るところあるからさ」

「……最近お気に入りの子がいるコンビニですか?」

「……なんで知ってんだ?」

「お姉ちゃんから聞きました。……(どうせ相手にされませんよ)」

「おい、最後のボソッと言ったつもりだろうけど聞こえてるからな?」

「気のせいですよ?」

「このぉ……まぁいいや。じゃあ!」


 そのままゴミを担ぎなおして焼却炉目指して歩いていくと後ろからまたボソッと聞こえた。


「……バカ」


 だから聞こえてるっての。




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