第4話 「俺、そっち帰るわ……」

 なんでこんなことになったのか。

 それを説明するためには、実家のある県の隣の県にある、1日は48時間だとか言うアホみたいな会社で社畜生活をしていた頃に戻る。


 ━━今から二ヶ月前の七月上旬。


 省エネだとか言って、冷房もろくに効いてないオフィスでの作業中のことだ。

 いきなり上司に呼ばれた。


「真峠、ちょっとこい」

「はい」


 どうせ仕事の追加だろ? 終わんねーよ。お碗ねーよ! つまんね……。あぁダメだ。頭がやられとる。

 そんな事を考えながら上司についていく俺。

 そして応接室に入って席についた瞬間のことだ。


「真峠、今月でクビだそうだ」

「……はい?」

「リストラだよリストラ。もうダメなんだとさ。半分は切るらしい」

「まじすか……けど、なんで俺が? 自分で言うのもなんですけど、割りと貢献してたと思うんですけど」

「それはアレよ。社長が好みの女ばっかり残すつもりだからな」

「こ、こんな会社潰れてしまえっ!!」


 と、そんな事があった週の週末。

 どうせクビなんだからと休日出勤もせずに、俺はファミレスでとある人と対面していた。


 目の前にいるのは【森口もりぐち 香澄かすみ】 こっちに来てから知り合って、付き合ってそろそろ二年になる俺の恋人だ。ちなみに歳は俺の二個下で二十四歳。どんなに忙しくても時間を作っては、週に一度は必ず会っていた。お互いにそろそろ結婚でも……って考えてたところのリストラだからな。ちゃんと説明しないといけないから呼んだってわけ。

 そいえば香澄もなんか話あるって言ってたな。


「え、リストラって……。こうちゃん大丈夫なの? 次は? 部屋はどうするの? 社宅なんでしょ?」

「まだなんとも。部屋は来月までは住めるらしいからそれまでには」

「そっか……。けどがんばってね?」

「あぁ。そいえばそっちの話って?」

「え? ううん、なんでもないよ」


 そしてそのまま再就職先も部屋も見つからずに月末近く。


 部屋に戻るとポストに封筒が一つ。開けてみるとそこには、今月いっぱいで[退去指示]の文字。

 書面の内容を見ると、社宅として使われているこのアパートはすでに売り払われていたようだ。

 そして、次の入居者の兼ね合いでの退去指示だった。


「ふっざけんなっ! 聞いてねーぞ!」


 どうする? そうだ!

 俺はすぐにスマホをだして履歴から一番信用してる相手に電話した。


『……もしもし』

「香澄、頼みがある。少しの間だけでいいから部屋に置いてくれないか?」

『えっ?』


 そして最初から説明する。俺の考えが甘いのもわかってる。もちろん甘えるつもりはないし、部屋が見つかるまでの間だけでも、きっと香澄なら……そう思っていた。けど……


『こうちゃんゴメン。もう、別れよ?』

「え? なんで? リストラされたからか? 部屋も見つけれないからか?」

『んーん、違うの。実はね、ちょっと前からイイなぁって思う人がいて、その人から告白されて……その……ね? ホントはもっと早く言うつもりだったんだけど、かわいそうで言えなくて。ごめんね』


 何がなんだかわからない。かわいそうってなんだ? 俺を哀れんでいる? なぜ?


「いや、そんな、かわいそうって……ちょっと待て。え? 結婚しようって話は? は? どういうことだ? なぁ、今から会って話をしよう! どこに行けばいい? 部屋か? あのファミレスか?」

『ゴメン、無理なの。今から彼が来るの……。だからもう電話もしてこないで。ごめんね。じゃあね』

「あ、おいっ!」

『ツ━━ツ━━』


 すぐにかけ直すが繋がらない。

 通話拒否……か。


 仕事もない。部屋もすぐに住めなくなる。そして彼女は浮気か……。


 俺は再度スマホを手に取る。

 アドレス帳をスライド。実家の番号をタップ。

 しばらく鳴らしていると、母さんが出た。

 俺は簡単に状況を説明。言いたくないけど、香澄の事を話した事もあるからそれも。

 そして最後に一番の要件を……。


「俺、そっち帰るわ……」


 通話を切る。

 香澄のアドレスを削除。


 俺はもう、本気で人を好きになるのはやめた。



 〜〜真峠家〜〜


 妙齢の女性が静かに受話器を置く。

 晃太の母親である。

 そしてその顔は決意に満ちていた。


「電話、晃太からか?」


 声を発したのはビールの入ったグラスを持ったナイスミドルな男性。晃太の父親だ。


「えぇ。晃太ね、リストラされて来月こっちに戻ってくるらしいわ。しかも、彼女にもフラれたんですって」

「なん……だと!? それはつまり……」

「そうよ……。これは結ちゃんか柚ちゃんをうちの嫁にするチャンス!」

「おぉぉ! よし、すぐに天音さんとこに連絡しよう。あっちもどっちかを晃太にやりたいって言ってたしな!」

「そうね! 学生の時に言ってた、『子供同士を結婚させよーね?』 の夢が叶う時がきたわっ!」

「「フフフ……」」


 両家の陰謀の始まりである。



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