エピローグ

 大学を卒業し、僕は東京に出て、しばらく撮影スタジオでバイトをしてから、とある写真家のアシスタントになった。大学の専攻であった工学部とは全く関係ない道に進んだ僕に親は呆れていたが、「好きにしなさい」と最後は諦めに近い理解を示してくれた。

 叱咤激励というか罵詈雑言というか、厳しい言葉を浴びせられつつ、アシスタントとして働き始めて、もうすぐ三年。独立できるのはまだまだ先だろうが、コツコツと貯金も貯まってきて、彼女にプロポーズしようと決意した。

 地元で小学校の先生をしている彼女のもとを訪れ、初デートで行ったあの海浜公園に彼女を連れて行った。しかし、意気込みだけで空回りなのは、年をとっても変わらないらしい。よりにもよって、真冬の寒い時期。木々は丸裸で、花々はその気配もなかった。ネモフィラが青く染めていた丘は、ブルーシートのようなもので覆われ、見る影もない。


「こりゃ、ひどいな」


 丘を見上げて苦笑する僕の隣で、カシャっと彼女のスマホが音を鳴らした。え、と振り返ると、彼女がスマホで丘の写真を撮っていた。


「こんなの撮って、どうすんの?」

「今日の記念」


 そう言ってスマホを抱いて、いたずらっぽく笑う彼女に、段取りも忘れて僕は「結婚しよう」と言ってしまった。

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彼女の『遺影』 立川マナ @Tachikawa

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