第11話 勝手に回想にいくんじゃねぇ

「エムド君は十王になるにはまだ早かったみたいね。十王は地獄道の支配者よ。誰にも負けちゃいけないの。あとで閻魔送りけって〜い!」


 女みたいな話し方だが、声は野太いおっさん声だな…お姉なのか?


 顔がまだ見えんからなんとも言えんが。


 霧が完璧に晴れると周りがよく見えるようになる。


 う…なんか顔が汚いな…

 汚れてる訳じゃないが…汚いな…

 ヒゲがもの凄い青いし…

 あのヒゲはかなりの攻撃力を持ってるとみた…

 当たれば痛そうだ…


 それに誰が見てもわかるカツラ…

 おっさん…ズレてるから…空飛んで来たんなら固定して来いよ。

 教えたほうがいいのかな?

 

「あれは…なんか見た事ありますよ。誰だったかな?」


 シエンは呟きながら思い出そうとしている。

 あんなのと知り合いなのか?


「エムド君を離しなさ〜い。十王を敵に回してただで…!?」


 空から降りて来た者はユアの顔を見ると、驚き、自分の顔がユアに見えない様に背ける。


 明らかに知り合いっぽいな…

 しかも会いたくないと見た…

 

「離してほしいならかかって来いよ!ブサイク!」


 ブチブチ…嫌な音がする。

 エムドに残された最後の希望が引き千切られる音だった。

 エムドは希望が潰えて気を失った。


 エムド…すっきりしてよかったな…

 モミアゲと襟足しかなかったのに、なぜあそこまで毛に固執したのかはっきりいってわからん。

 俺ならあの髪型は恥ずかし過ぎるけどな…

 髪型といっていいのかわからんが…


「いや〜私、散髪の予約入れてたの思い出したんで帰りますね。」

 

 顔を背けたまま帰ろうとする男にユアはニヤッと笑みを浮かべる。


「散髪屋ならここにあんだろ?私がカッコよくしてやるよ。こいつみたいに。」


 ユアがそう言うと何かを思い出したのか男は生まれたての子鹿のように足がプルプルと震えだす。


「あっ!思い出しましたよ!あいつも十王の一人ですよ!」


 え…あんなのも十王なの?

 変わり者が多いな…

 しかもあの動揺はただ事じゃないぞ?


「あのカツラの下を見ればもっと思い出す気がします。」


 なぜカツラを捲れば思い出す?

 ただ見たいだけだろ!

 俺も見たいが…


 男は恐怖を拭いさるように、決意する。

 (私は強い…あれから地の滲むような鍛錬をした。絶対に負けない。)


「わ、私は十王の一人。五感王グルドよ!怒髪天!あの時の借りをいま返すわ!」


 嘘だろ…こいつ…怒髪天って言った?

 辺鄙な森出身者決定だな!

 そこで何かあったのかな?

 う〜気になる。


「そんなに気になるなら教えてあげるわよ。あれは…」


 俺…声に出てたか?

 勝手に回想に入りだしたんだけど…

 

 今より1500年前の事…

 

 修羅道の北にある辺鄙な森の中には色々な種族の住処があった。


 その中の一つの部族…棍棒を操るのに長けるゴリ族。

 その中で生まれた一人の赤子はフサフサの体毛に覆われ1本の角が生えていた。


 ゴリ長はその赤子を鬼神の生まれ変わりと思い、大昔のゴリ族の英雄『グルド』から名を貰い赤子につけた。

 村総出で大事にそして強くなるように育てていく事になる。


 だが成長するにつれて、グルドの口調や体が変わっていく。

 確実に強くなっているのだが、男への興味も同時に強くなっていた。

 

 そして、ゴリ族の特徴の一つ、フサフサの体毛を剃り始めたのだ。


 ゴリ長はどうしたもんかと考えたが鬼神を疑わないゴリ長は好きにさせる事に決め、もっと強くするために戦場に出すことに決めた。


 修羅道は常に戦が蔓延る世界…この世界がある限り、ここで生まれた者は戦う宿命を授かる。

 

 戦う理由などはいくらでもあるのだ。


 誰かが「アイツが気に入らない」と言えば、種族間同士の戦争になる。


 そんな戦闘狂が多い世界。

 



 時を同じくして魔女族にも生まれた子がいた。

 魔女族の者達には父はいない。

 いや、正確にはいるのだが、女が孕んだと分かれば殺すのだ。

 そして生まれてくる子が男の子だった場合も…


 母は娘に全ての力を奪われたかの様に娘を産むと同時に亡くなった。

 母の姿は干からびていたそうな。

 

 それを見た魔女長は娘はこの先、『あの者』と同じく災いをもたらすと思い殺そうとするが、村の者達の説得によりその場は思い留まる。


 その子も村全体で育てる事になり母の名を貰い『ユア』と名付けられる。

 

 母に似ず、粗暴で魔法が苦手…というよりも嫌いだった。

 

 子供同士で教わった魔法を披露していると、何が気に喰わないのか殴りかかって行く。


 始めは大目に見ていた大人達も、それが日常になれば、次第に厄介に思い出す。


 元々、魔女族は好んで戦はしない。

 火の粉が降りかかれば払う為に戦いに赴くが自分達から戦争を仕掛ける事はなかった。

 

 だがユアは村の外に行っては他種族に喧嘩を吹っ掛ける。

 

 常に怒っているユアは誰が言い出したか怒髪天と言われる様になる。


 とうとう堪忍袋の緒が切れた魔女長は娘を殺す事に決めるが、それを悟った娘は村を逃げ出すことに成功する。


 だが今まで喧嘩を売りまくっていたせいで、周りは敵だらけ。

 娘を殺そうとする者は多くいたが、助けようとする者は誰一人いなかった。


 ユアは毎日の様に他種族から攻撃を受け、その全てを返り討ちにしてきたが、日に日に弱ってきていた。


 洞窟で休もうと中に入り、寝ようとすると話しかけられる。


「やっと見つけた…魔女族の怒髪天はお前だろ?」

 

 獅子の獣人ライアット族の若者が話しかけてきた。


「誰だ…お前は…お前も私を殺しに来たのか?相手になってやる」


 弱っているユアは本来の半分以下の力しか出せないでいるが、退くことは負けを意味し、死んでも戦い抜くと決めていた。


「フフっ。弱っているのに強気だな…力が回復したら相手になってやるさ。」


「じゃあ何しに来た?」


 若者は果物をユアに手渡す。


「腹が減ってんだろ?毒なんか入っちゃいないさ。食えよ。」


 若者も果物を食べだす。

 

 ユアには理解ができなかった。

 小さい頃は周りの人から食べ物を貰っていたが、段々と周りに嫌われ、独りぼっちになっていた。

 優しくされることなんてなくなっていたからどう反応すればいいのかわからない…


 毒に耐性はあるので取り敢えず一口食べてみる。

 4日ぶりの食事は美味かった… 

 胃がキュルキュルと音を立ててもっと寄こせと言ってるようだ。

 貰った果物を無言でがむしゃらに食べ終わると今度は睡魔が襲ってくる。


 そりゃそうだ。

 少し休息をとろうとすれば襲撃にあい、居場所を変えるためにまた歩きの繰り返しだったのだから。

 

 でも寝るわけにはいかない。

 果物をくれたからといって信用していいわけじゃないのだから。


「眠いなら寝ろよ。俺が番をしてやるから。」


 そんな言葉には騙されないぞ。 

 相手を信じきった奴から死んでいく。

 そんなのは誰かに教わらなくても常識だ。


「眠くなん…てない…大きな…お世話だ…」


「ったく…『眠り姫スリープ』」


 まずい…今の…私は…


 ユアはゆっくりと目を閉じ、そして静かに眠りにつく。

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黒き一閃〜俺と娘と六道輪廻〜 鳴神 底辺 @hidetoshi0402

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