第10話 残念な性格

 エムドはユアに追撃を仕掛けようと店の外に出ようとするがそうはさせない。

 エムドの首を掴み、ユアとは逆の方向へと投げ飛ばす。

 だが手応えがない。


「ユア!大丈夫か?」


 ユアが飛ばされた方を見ながら声をかけると、エムドがユアに攻撃の体制に入っている。


 何?…何が起こった?

 手応えは感じなかったが確かに反対に投げ飛ばし、壁をぶち抜いたはずだ。

 不思議に思い、壁を見ると穴は空いていない…


 ユアは魔法を使おうと詠唱に入るが、エムドのスピードの方が速く、腹に一撃をくらい、ユアの詠唱が止まる。


「フハハッ!魔女風情が私の相手をするだと?片腹痛いわ!雑魚が!お前など素手で十分だ!」


「ユアー!」


 ユアの側に駆け寄ろうとするとシエンとシェルが現れる。

 

「主!何事ですか?」


「十王の一人に出くわしてしまった。ユアが戦っているが相手は近接タイプでユアには不利だ。早く助けるぞ!」


 シエンはそれを聞きユアとエムドの方を見ると少し焦りだす。

 

「主…もしかして…ユアは顔か腹に一撃もらいました?急いでここから離れましょう!出来るだけ遠くの方がいいです。」

 

「それよりあのハゲを知ってるのか?なぜ逃げる?ダメだ!仲間を置いて逃げるなどできるか!」


 シエンは時間がないと言わんばかりに、俺とシェルの手を引っ張る。


「テメェ…なに調子に乗ってんだ!ハゲが!」


 ユアの声が辺りに響き渡ると同時にエムドが地面に膝をつく。

 え?何が起こった?

 とゆうよりもユアの口調が今までとは明らかに違う。 

 


「あの…シエンさん?ユアさんはどうしたのかな?」


 シエンはまだ俺とシェルの手を握りながら走る。


「ハゲの事は知りませんね。主はユアが魔女族だから魔法が専売特許と思いましたか?」


 師匠のルインも鬼神を魔法で片付けたし、エグゼに来る途中でもユアの強力な魔法は見てるからな。

 魔女=魔法と考えるのは自然じゃなかろうか?


「普通ならそうなんですが…ユアはバリバリの武闘派なんです。魔女族の異端児、脳筋魔導士です。初めてユアに会った時は言葉を交わすよりも先に腹パン貰いました。」


 何それ…怖いんですけど…

 

「私が人見知りだから挨拶をするのが少し遅れただけでですよ?」


 シエンは思い出しながら少し笑う。


 さっきのお返しと言わんばかりにユアの拳がエムドの腹にめり込んだのだ。


 そのままユアは膝をつくエムドの右のモミアゲを掴むと、思い切り引き千切る。

 

 エムドは悲鳴を上げている。


「魔女だからひ弱と思ったか?ハゲ。白兵戦がやりたいならどっちが上か教えてやるよ!ツルピカはげ!残りの毛も毟って卵にしてやるからな!」


 エムドは立ち上がる。

 その顔は怒りに満ち先程まではなかった角がおでこに2本生え魔力が高まっていく。


「調子に乗ってるのはお前の方だ!私は好きでハゲた訳ではない!散髪に来たらこうなっただけだ!元はフサフサのイケメンよぉ!」

  

 自分で言ってるな…

 顔は悪くないとは思うが、髪と性格が残念な奴だ…


 エムドは腰に差していた長細い笛を取り出し、ユアに連続で殴りつけていく。


 ユアは難なく躱し、執拗にエムドの腹を狙って殴りつける。

 

「ユアは腹を殴られたようですね…しつこく腹ばかり狙ってるからわかりやすいです。ユアは根に持つタイプなんで…」 


 シエンは解説をしてくれるが、なんかエムドがかわいそうに見えてくるな。


 ユアの重いパンチでエムドは空に打ち上げられる。

 空を飛んでいた鳥が、気を失ったのか地面に落ちてくる。


 そういえばあのハゲ…素手で十分とか言わなかったか?

 

 切り替え早えな…にしてもエムドを殴った風圧で空を飛ぶ鳥が落ちるとは…


 ユアは怒らせないようにしよう。


「主…主…因みに出会った頃のユアは『怒髪天どはつてん』と呼ばれてました。私の師匠エルドラにも喧嘩売ってましたから。あれが本来のユアです。」


「怒髪天?」


「別に髪が逆立つ訳じゃないですよ?ただ単に異常に短気でした。結構有名でしたよ。魔女の里がある修羅道の北の辺鄙へんぴな森の中で知らない人はいなかったです。」


 範囲せまっ!

 それ知ってるの絶対身内じゃん!

 知らない人の方が多いよ!


 エムドは混乱していた。

 十王の私が貧弱な魔女に殴り飛ばされている現実。

 なぜだ…私は十王まで這い上がった…

 若くして期待されている。

 髪型のせいで力が入らないのか?

 それとも臭いからか?

 この屈辱は晴らさせてもらう。

 力の解放をしてコイツを殺す。

 エミルなんて二の次だ。

 

 エムドは力を解放する為、空中に留まり力を溜める。


「喜べ…お前には一段階の開放で相手してやる。はあぁぁ!っおぶし…」


 ユアの拳がメリメリと音を立てながら腹にめり込み、エムドは地面に叩きつけられる。

 

 地面に倒れているエムドに追撃の膝蹴りを腹に落とす。

 ドゴォーン!

 もの凄い音と共に地面は抉られ近くの建物は木っ端微塵になり果てる。

 

 ユアは倒れているエムドの左のモミアゲを容赦なく引き千切ると、


「おい立て!もう終わりか?あと襟足しか残ってないぞ?」


 エムドはその言葉を聞いてよろめきながらも立ち上がる。

 なんとしても後ろの髪は死守せねば…

 とゆうより何なんだよ!

 大体、相手が力を解放する時は待つもんだろーが!

 なんで躊躇なく攻撃するの?

 常識無さ過ぎだろ!


「…楽しみた…いなら少し待て…力を解放するから…」


「早く言えよ。このチャビンが!」


 言ったよ!開放するって言ったのに攻撃したじゃん…

 く、屈辱だ…

 しかし待ってもらえるなら勝機はある。


「はあぁぁ!フンッ!この力がお前に感じれるか?」


 エムドが笛を奏で始めると体が10体に分かれ辺りは濃い霧に覆われ始める。


「我が名は奏帝王エムド。幻惑を司る十王の一人なり。」


 あれ?名前言うの2回目じゃない?

 強くなってまたカッコつけてる?


 だがなるほどな…最初に投げ飛ばしたのも幻惑か…いつの間に笛を吹いたんだ?

 とゆうか俺は、ばっちり幻惑かかってるんですけど…


 10体に分かれたエムドは霧の中からユアに攻撃を仕掛ける。

 

「フハハッ!お前なぞ一段階の開放で十分よ!」


 ユアは9体を無視し、本体の顔を鷲掴みにし地面に叩きつける。


「お前…魔女族の事何も知らねぇのか?魔女族に幻惑は効かないんだよ!」


 ユアの手に段々と力が入る。

 エムドのこめかみからメリメリと音がし、やがてバキっと何かが割れる音がした。


 エムドから悲鳴が上がるがユアは手を緩めるつもりはない。

 

「ま、待て!全力出す…から…勿体ぶってすいませんした。」


「いやもういい。お前のおかげで思い出した事がある。消えろ」


 ユアはこのまま握り潰そうとしたが、何かが来るのを感じとりエムドを握ったまま、後ろに跳んだ。


 その直後、空から何かが降って来た。


「あ〜らら。外したか。エムド君何してんのよ?十王たる者がさ。」


 エムドよりも強い力を感じ、ユアは高揚感に満ちていた。


「ちっとはマシなのが助けに来たかぁ?」

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