第9話 十王の一人はただのハゲ?

 うーん…寝苦しい…

 夜中に目を覚まし、右隣を見るとシェルのかわいい寝顔があり、ほっこりする。


 トイレに行こうと立ち上がろうとするも、動きづらい。

 左隣を見ると兜を被ったままのシエンが寝ている。

 兜と鎧を着たままじゃないか…

 というより何故隣で寝ている…?

 

 考えながら用を足し戻ると、兜は被ったままだが鎧を脱ぎ下着姿のシエンが寝ている。


 …起きてんの?

 暑いなら一人で寝ろよ…

 兜被ってるからわかんねぇな…

 寝たままのシェルを抱きかかえ隣のベッドで一緒にまた眠る。


 …朝か…プニプニ…出る準備をしないとな…プニプニ…

 この柔らかく弾力のある物はなんだ?

 揉めば揉むほどに幸せな気持ちになるな…

 ゆっくりと目をあけると隣にシエンがいる。

 

 またお前か…いやまずいな…

 さっきのはシエンの胸だったか…

 起きて来る前に離れとかないと何を言われるかわかったもんじゃない。


 起き上がり準備を整えてると続々とみんなが起きてくる。

 

 店主に朝飯を運んでもらった時に聞いてみる。


「髪を切りたいんだがどこで切れる?…あと畜生道に行きたいんだが入り口を知らないか?」


「散髪屋なら近くにあるさ。畜生道の入り口は…わしは知らんな。奏帝王様なら知ってるんじゃないか?ただ教えてくれないと思うがな。」


 十王の一人か…

 …会えば戦いは避けられんだろうな…

 

 そういえばラスピリの姿が見えないな…

 ちょいちょいどっか行く奴だな…


「俺は髪を切りに行くからその間に情報を集めてくれ。出来るだけ目立たないようにな。」


 まずは店主に聞いた散髪屋に行ってみよう。

 

 カランカランっ。ドアを開けると先客が一人いるみたいだ。


「いらっしゃい〜。そこに座って〜。」


 半魚人がやってる散髪屋か…

 …なんか色々濡れてるんですけど…


 濡れてるというか床とかヌルヌルするな…

 ネチャ…

 う…嘘だろ…なんで椅子まで濡れてるんだよ…

 嫌がらせ以外なんでもないぞ…


「お任せでいいですよね?というかそれしかできないんで。」


 不安しか感じないんだが…

 先客の人を見ると寝ているみたいだな…

 …え…そんな髪型でいいの…?

 元の髪型を知らないがモミアゲと襟足しか残ってないんだが…その他は眩しいほどの光を放っている。


 半魚人の親父は自分の手の平にツバを吐くと俺の髪を揉みほぐしていく。

 く、臭っ!なにしてんの?

 髪が糸引いてんだけど…散髪屋ってこんなんだっけ?

 

「親父…やっぱり今日はやめとくわ…なんか気分が悪い。」


「兄さん大丈夫ですぜ。寝てる間に終わりますんで!さて…どうするかな…」


 隣の客が寝てんのはそうゆう事か…

 とか思ってる場合じゃない!

 ツルツルになっちまう!

 

「じゃ、じゃあ先に髪を洗ってくれないか?」


 はいはいと、親父は髪を洗う準備をし何かを持ってくる。

 目の前には水槽だ…

 …え…?なんで水槽?

 それより水が紫色でグツグツ煮立ってるんだけど!

 こんなのに頭浸けたら俺の毛根全滅だよ!


 やばい…やばい…逃げるしか…

 

 カランカランっ。


「エミル様終わりましたか?」


 天使だ…天使が迎えに来た…

 このまま連れ去ってくれ。


「お、終わった。今すぐ帰ろう!金を払ってくれ」


 ユアが親父に金を払うが不満そうな顔の親父。

 だが金を受け取ったからには何も言えない。

 

 ユアの近くによると苦そうな顔をする。


「エミル様…お風呂に入ったほうがよいかと…」


 そうだよね。臭いよね…


 店を出ようとすると隣で寝ていた客が起きる。


「兄さん…ちょっと待ちなよ。今…エミルって聞こえたんだけど…どうなのさ?」


 殺気をビンビン感じるんだが。

 誤魔化したほうがいいかな?


「いや…」


「あぁー!なんじゃこの髪は!髪切りに来ただけでハゲてるよ!これもう髪型じゃないよ!てか臭っ!親父てめぇ!」


 鏡を見た男が騒ぎ出す。

 それもそうだろう。

 俺でも同じ反応になる…クスクス…


「エムド様。落ち着いて下さい。私はカッコいいと思いますよ?これ以上のカッコよさは私には無理です。」


 親父も必死に説得する。

 あの髪型が最高なのか…切られんでよかった…

 

 それよりエムドか…


「くっ…まぁ切ってしまったものはしょうがないか…金棒百叩きと魂一叩きでお前の罪を許そう」 


 親父の顔は絶望に染まり怯え始める。

 それは一叩きで肉は裂け骨は折れるのだ。

 百回叩く頃には肉片と粉々の骨に変わり果てるだろう。

 そして魂…無防備で弱い。

 だが生前の能力が強ければ強い程、魂も強化され、簡単には消滅できない。

 通常の魂は金棒で叩かれるだけで消滅させられるのだ。

 

 エムドが指をパチンと鳴らすと鬼が2体現れ半魚親父を連れて行く。


 話を戻そうとエムドが見てくる。


「それでどうなんだ?私はエミルとゆう男を探してるんだよ。」


「何故探してる?」


「私は500年前に入れ替わりで十王になった者だ。だからエミルの顔を知らないんだよ。伝説の『黒き一閃』を私がやれば私が閻魔王だ。」


 十王…なんで散髪屋にいるんだよ…

 タイミング良すぎだろ…

 誤魔化せるか?


「悪いが俺の名はエノムだ。人違いじゃ…」


「エミル様今すぐシエンと合流をして下さい。ここは私が相手をします。」


 あ…名前言っちゃったよ…

 

「奏帝王エムド。貴様等を殺す男の名だ!覚えておけ」


 カッコつけてるけどお前の髪はやばいぞ?

 エムドは床を踏みつけ、ユアの前まで来ると殴りつける。

 ユアは手でガードをするが入り口をぶち破り外に弾き飛ばされる。


 近接タイプか…?ユアとは相性が悪いかも知れんな…

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