第3話 チュートリアルの先は……

「早っ。これでチュートリアル終わり?」


 課金ガチャを引き、試しにスライムと一戦を交えると、スマホの画面に『チュートリアルはこれにて終了です。それでは素晴らしき冒険者ライフを!』というメッセージが表示された。

 チュートリアル──それはたかし君にとっては退屈だが、ゲームの操作方法を学べるとても重要な機会である。


 このチュートリアルの先はユーザーのみぞ知る、と言うべきだろうか。この先の世界は全て、ユーザー次第で変わるのだ。

 まさに十人十色。

 パーティに強いキャラや好みのキャラで固めて魔王討伐へ続く修羅の道を進むも良し。

 そのキャラごとのストーリーを進めて、好感度を上げたりするも良し。

 そして『リセマラ』という行為が存在するのだが──詳しい説明は割愛。

 あまりにも冒険者たちには可哀想なものである、とだけ言っておこう……。


 さて、たかし君は新米冒険者ルーベンの冒険譚をどのように彩るだろうか──。


「おっ、ガチャ解放されたし早速回そっかな」



 〇



「変な目に遭いませんように変な目に遭いませんように変な目に遭いませんように……」


 俺は次の街に向かいながら、神に祈る。ていうか、そろそろ神に文句を言いたいのだが!?


 また攻撃力だけ異常に上がってるし、出会うモンスターはすぐ死んで、手応えないし!てか、モンスターと戦うより重すぎる武器を持って歩く方が辛いって、何すか??初心者泣かせですか??ねぇ??


『……コロス』


 しかも俺の剣、喋るんですよ。

『コロス』とか『シネ』とか、どこから漏れてるか知らないドスの効いた声が出るんですよ!

 あのさ、俺にも木製の剣、くれませんか??


 ──などと言っても、どうせ神様に届かないのだろうな……。


 顔を俯かせると、大きなため息を漏らす。

 あぁ、こんな冒険嫌だ……。


『神からのお告げです。神からのお告げです』


 今一番聞きたくない言葉が耳に入る。例の女の声だ。


『今からルーベン様には、ある場所に向かってもらいます』

「……聞かないって、言ったら?」


『……コロス』


 そこはお前が答えるのね!?魔剣さん!!


『ルーベン様には、今から泉に向かってもらいます。この先の道を右折してください』

「おっ、泉ですか?」

『はい、泉です』


 どういうわけか知らないが、泉があるなら是非行きたい。そこでアイツのせいで溜まった疲れを癒すとしよう。

 珍しく神様に従おうと思えた俺は、軽い足取りで泉へ向かった。

 神のお告げ通り右折し、木々の生い茂る道を進んでいく。

 すると、せせらぎが耳に入ってくる。どんどん泉に近づいているのが分かる。

 そしてすぐ、澄んだ水の張られた泉が、木々の隙間から垣間見えてきた。


「おぉ……」


 こんな美しい場所があったとは。

 俺は感激し、思わず声を上げた。

 目の前には、景色を写す鏡のような泉が広がっている。

 そして辺りを見渡せば、そこには──。


「……えっ」

「……ふぇっ?」


 女。


「……えっ?」


 裸の……、ONNA……。


「……あっ、あの、すみませ──」

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」


 俺は一目散にこの場から逃げ出した。

 別に猛獣を見たわけじゃない。だけど猛獣以上に見てはいけない、同じ歳頃の女の子の素っ裸を見てしまったのだ。

 もうヤダ。なんでこうなるの!?

 もういっそ、この俺を誰か殺してくれ!!


『……イキロ、ソナタハウツクシイ』


 何故ここで励ます!?てかこの魔剣、生きろって言えるのね!?


『神からのお告げです』

「あっ?」

『逃げんなクズ。とのことです』

「ふざけんな神様てめぇ!女の子の裸なんて見せやがっ……いでっ!!」


 突然見えない壁が立ち塞がったのか。俺は何かに顔面を強く打ち付けた。

 この先には行かせねぇってか?ふざけんなや!


『神からのお告げです。早く先程の女性、ミリア様の元へお戻りください。今はあなたをお待ちです』


 鬼畜かアンタ。

 なんで裸の姿を見た少女と無理やり会わせるんだよ。

 しかしこの先は進めない。

 俺はさっきとは裏腹の重い足取りで、泉へ引き返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自由に生きたいと願う俺の冒険譚は『ユーザーのたかし君』に乱される 緒方 桃 @suou_chemical

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ