第2話 冒険者デビューの行方は……

 俺の夢に見ていた冒険者生活は、開始早々『たかし』と名乗る神に物騒な大剣を授かったところから始まった。


 皆は初心者用の軽々とした武器なのに、俺の武器は重すぎて、持って歩くだけでも腰が痛い。つまりは俺の身体に全く合っていないんですよ? わかりますか? たかし様!


 ……なんてことを言っても、どうせ神様に届かないのだろうな。


 俺は諦めてこの大剣と共に自由に生きようと決意し、『ブルーム』の街を出発した。



 〇



 街を出てしばらく歩くが、モンスターの姿がちっとも見当たらない。

 きっとさっきの駆け出しの冒険者諸君らに駆除されたのだろう。可哀想だとは思うが冒険者の成長のためだし、街の人々を脅かす魔獣を倒すのが冒険者の使命の一つだから仕方ない。


 ──それにしても、マジで一匹も出ないんですけど? 次の街、着いちゃうんですけど?


 そう思い、少し不安を抱く俺に、どこからか声が聞こえた。


『たかし様のめいにより、今からステータスを開示します』


「うぉぁ!? 誰だ??」


 女の人の声が聞こえたが、キョロキョロと見渡すが、誰もいない。怖っ。気づけば隣にいました、とかいうのは止めてくれよ?


『ワタシはルーベン様とたかし様の仲介役。たかし様の命をルーベン様に伝える役割を担います』


 なるほど、神の使者といったところか。ということは──


「なぁ、その……たかし様に『こんな大剣いりません』って伝えて欲しいんだが──」


『ステータスを開示します』


「無視かよ!!」


 どうやら声の主は神様の命令を俺に伝えるのだが、その逆はできないらしい。下界の意見は一切聞きませんってか? そりゃそうか。


『ステータスを開示します』


「おぉ!!」


 目の前に自分の名前などの情報と、数字の羅列が表示された。これがいわゆる『ステータス』というものらしい。

 俺は一通り目を通してみた。



 -------------------------------------------

 名前:ルーベン

 レベル:1

 職業:剣士

 武器:インペリアルグロウ【Lv.1】


 ステータス

 攻撃: 105(5+100) 防御:5 M攻撃:5 M防御:5

 速度:5 命中率:5


 スキル

 【攻撃強化(大)】【覇王の一撃】

 【経験値取得(大)】

 ---------------------------------------------



 M攻撃? 防御? スキル??

 分からないことが多いな、これ……。


「あの、質問なんだけど」

『はい、何なりと』


 おぉ、質問には答えてくれるんだな。俺は表示されたステータスを指さし、説明を求めた。

 どうやらM攻撃とM防御は、魔法の攻撃力とその耐性のことらしい。MagicのMだと覚えるとわかりやすい。

 ちなみにスキルは冒険を手助けする能力とのことで、表示された三つのスキルは大剣を装備したことで付与されたものだという。


『たかし様の命により、ステータスを閉じます。それではご武運を』


 そう言うと表示されたステータスは消え、女の人の声も聞こえなくなった。

 試しに「おーい」と叫んでみると『ご要件は?』と言ってきたので、どうやらいつでも対応できるらしい。たかし様に伝えたいことは無視するけどな。


「……っと、ここでお出ましか?」


 顔を上げるとスライムが一匹、ぴょんぴょん跳ねながらこちらに向かってきた。

 一見無害そうな可愛いらしい見た目をしているが、臭い毒性の粘液をかけてくるから十分害悪だ。


 ──さぁ、俺の冒険者デビュー戦だ。


「うっ……よいしょ、っと……」


 それにしても、重いなこの大剣。せっかくかっこよく決めようと思っていたのに、武器が持ち上げられないなんて台無しだ。


「うっ……おらぁ……」


 それでも俺はなんとかして大剣を持ち上げる。あとはそれをスライムに振り下ろすのだが……。


『ピュッ!!』

「おっと、危なっ!!」


 突然、スライムが害悪な粘液を足元に吐きつけてきた。臭っ! でも両手が塞がっていて鼻が摘めない! 吐きそう……。


「そんなことより、早く攻撃を!」


 肩痛いし、鼻が潰れそうだし!! 早く終わらせてやるぅ……。

 俺はこの地獄から解放されるべく、大剣を振り下ろそうとした。そのときだ──。


「あっ」


 足元にあった粘液を踏みつけてしまい、そのまま足をツルッと滑らせた。

 そしてそのまま俺は大剣を持ったまま、地面に顔をぶつける勢いで転び、その勢いそのままで大剣を振り下ろした、のだが──


『スキル【覇王の一撃】を発動』


 ──えっ?


『ドゴォォォォォォン!!!!』


 大剣が振り下ろされると同時に大きな轟音が響いた。教会で突如、頭上から降ってきたときとは別格。

 見るとスライムは木っ端微塵。辺りの地面は大きく抉れていた。やべぇ……マジでこれ危ないやつだ。


 これは『たかし』と名乗る神の悪戯いたずらのせいで、俺が『破壊神』だの『魔王』だの『ラスボス』と言われ恐れられるまでの──異常な冒険譚である。



スキル【覇王の一撃】


攻撃時、5%の確率で一撃の攻撃力が×100増加する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る